「はあっ…。」
カレルはベッドで転々と寝返りを打っていた。昼間、頭を使いすぎたせいで、かえって頭が冴え、疲れているのにちっとも眠れない。こうなることがわかってたから、今日はせめてライマーのベッドで寝たかったのに。
『あんな写真』
脳裏に蘇ったライマーの声。カレルは横向きの身体を丸めた。
『いや…その…似合ってる…というか…。』
目を逸らしながら必死で言い訳するライマー。
(ちっ、嘘をつくならもう少し上手に付けよ。……ま…無理もねぇけど。)
調子に乗ってからかった自分が悪いのだ。あれは恐らくエルヴィンが置いたのだろう。
「あいつ、絶対お前に気がある。」
とエルヴィンは言う。その癖、尻尾を出さないのが気に入らないのだとか。
「そうか?そんなの一度も感じたことはねぇけど?」
「そこが気に入らない。今に本性を暴いてやる。」
一度も感じたことはない―――エルヴィンに対してそう言ったが、本当はひょっとしたらと思うことは何度もあった。けれど、嬉しくなってそこに踏み込もうとした途端、ぴしゃりと拒絶され、突き放された。その度に深く傷つき、浮かれ気分が一気に暗転、そして勘違いした自分が恥ずかしくてたまらなくなる。…今みたいに。
カレルはしばらくじっと縮こまっていたが、やがて眠るのは諦めてベッドから起き上がった。
真っ暗闇の中、毛布を羽織って引きずりながら机に座った。椅子の上に胡坐をかき、毛布の中に足を手繰り寄せる。寒い。しかし、暖炉に火をつけるのは面倒くさい。カレルは椅子の背に寄りかかって天井を見上げた。
「はあ〜ぁ。」
ぼーっとしてると、また考えたくないことを延々と考えてしまいそうだ。
(仕方ねぇ。あれの続きでもするか。)
カレルはランプに明かりをつけ、『アルベル解体新書』を取り出すために、鍵付きの引き出しを開けた。
「あ…。」
そこに写真を入れていたのを思い出した。手にとってじっと眺める。ライマーとリコちゃん人形。まったくもってミスマッチ。それがたまらなく可笑しい。本当はこれを複製し、祭の賞品としてばら撒こうと思った。
シーハーツとの交流が始まって、女性との接点が格段に多くなった。そして、多くの女性がライマーに目をつけた。それは当然の結果だ。だが、彼女達がライマーの表面しか見ていないのが気に入らなかった。この写真を見て尚、ライマーを慕うというなら認める。その踏み絵としてこの写真を使おうと思ったのだ。
だが、『相当なイメージダウンですよ?』と言ったオレストの言葉が、棘のように心に引っかかり、寸前で思いとどまったのだ。今改めて、やめて良かったと思う。ライマーを辱めようとするなんて、どうかしてた。
カレルはその写真を引き出しの一番底に隠した。
(これは俺だけの楽しみだ。)