小説☆アラアル編短編集---パフェ

  (ちっ、美味そうに食いやがって。)

アルベルは、パフェを食べる客の姿をちらりと横目で睨みながら、フルーツパーラーの前を通り過ぎた。

パフェ。

アイスクリームにフルーツを盛り合わせ、さらにチョコやフルーツソースをかけた、まさに夢のようなデザート。本当は食べてみたい。だが女性客に混じってアレを食う姿はどう見たって間抜けだ。

溜息を付き、いつものように諦めかけた、その時。ふと思った。

  (…アランなら作れるんじゃねえか?)

きっと作れるはずだ。そんな期待感がアルベルを急がせた。



勢いよく家の玄関を開けると、アランが驚いた表情でこちらを見ていた。玄関に花を飾っているところだったらしい。

  「どうかなさったのですか?」

息を弾ませるアルベルの様子から、アランは何か緊急事態かと心配気に迎え入れた。

  「アラン…」

  「はい。」

アランが真剣な表情でこちらを見ている。その途端、『パフェ』と口にするのが急に恥ずかしくなった。アルベルはしばらく悩んだ末、こう切り出した。

  「お前、菓子は何が作れる?」

アランの予測からあまりにも掛け離れたこの問いに、事態を掴みかねたが、それでも素直にアルベルの質問に答えた。

  「…仰ってくだされば何でも作りますが。」

なんと頼もしい答えだろう。じゃあ、パフェは…

  「…アイスは?」

  「できます。」

  「それに果物をのせて、クリームとチョコレートをかけたやつは?」

  「パフェ…ですか?」

流石アラン。察しがいい。

  「…それだ。」

  「あれはただ材料を盛り合わせただけですから、簡単にできます。」

その瞬間、アランの頭上に後光が差しているように思えた。

  「フン。じゃあ、作ってみろ。」

アルベルはシレッという感じでそう言ったが、心の中は、言葉にならないくらいラッキーハッピーvv顔が緩んでしまわないように、相当気を引き締めなければならなかった。しかし、アランにはそれが分からない。急いだ様子で『パフェを作ってみろ』と言ったかと思うと、なにやら不機嫌そうに目の前を通り過ぎていくアルベルに、ただただ戸惑うばかりだ。それが、

  「は…はい…。」

という歯切れの悪い返事に表れた。一風呂浴びてパフェに備えようと行きかけてたアルベルは、その曖昧な返事に、まさか、とアランを振り返った。

  「どうした?」

この期に及んで作れないと言い出すのではないかと心配したが、違った。

  「あの…それでどうなさるのですか?」

  「は?食うに決まってるだろう?」

バカな事を聞くもんだ。パフェに、食う以外の使い道などないだろうに。アランらしくないと思ったが、アランはまだすっきりしない表情だ。

  「あなたが?」

  「他に誰かいるか?」

  「いえ…。」

  「何が言いたい?」

  「…何か急用だったのでは?」

それでようやく、アルベルはアランの置かれた状況に気付いた。確かに、『パフェを作れ』なんて、走って来て言うほどのことではなかった。アルベルは微かに頬を赤らめ、

  「別に。走り込みをして帰ってきただけだ。」

と、誤魔化した。



パフェ。

自分には一生縁のないものだと諦めていた。それがもうすぐ目の前に現れる。わくわくそわそわと落ち着かない気分を隠しながら、ソファにどっかりと座って待っていると、アランが待ちに待ったアレを運んできた。

アルベルは思わず歓声を上げそうになった。

憧れのパフェに、なんと大好物のプリンまでのっていたのだ!

アランが気を利かせてくれたのだ。アルベルは思わずアランに抱きつきたくなった。しかし、パフェを取り落としでもしたら大変だ。アルベルは今や、取り繕った仮面を被るのも忘れ、目を輝かせてパフェを見つめている。それを見てアランは密かに笑いを噛み殺した。

  「どうぞ。」

アルベルは、アランがパフェをテーブルに置くと同時にスプーンをとった。どこから食べるか。まずはプリンだろう。いや、折角のパフェだ。まとめて味わうべきだ。スプーンでプリンとアイスを一緒にすくい、チョコレートのかかったクリームをつけて口に運んだ。

  「美味い…!」

アルベルが涙を浮かべんばかりにしみじみとそう言うと、アランがとうとう堪えきれずくすくすと笑いだした。

  「何だ?」

  「いえ…すみません…そんなに喜んで頂けるとは思わなくて。」

そんなにパフェが食べたかったなんて。アランは、なんとか笑いをおさめようとしながら、アルベルにニッコリ微笑んだ。アルベルは、アランが何で笑っているのかわかったようで、不機嫌な顔をしながら、ちらっとはにかんだ。

  (ああ…なんて可愛い人なんだろう…!!)

見えない無数の刃に覆われたアルベルの心の中には、まっさらな少年のままの部分があって、それがこんな風にチラリと垣間見える度、アルベルを力の限り抱きしめたくなるのだ。今はそうする代りに、夢中でパフェを食べるアルベルを目で愛した。

  (まさかこんなものがアルベル様をこんなに喜ばせるとは。)

実はパフェはアランの美意識から外れたものだった。ただでさえ甘いアイスクリームの上に生クリームを乗せ、更に甘いソースをかけるなど考えられなかったのだ。しかし、実際に作ってみると、意外な奥深さを感じて、とても楽しかった。

  (アイスとプリンは甘さを控えめにして、しかしその分、風味は活かし…それぞれの味が合わさった時、最高の味になるように…)

それこそ無限の組み合わせが出来る。面白い、と思った。興味ないと切り捨てていたものに、実はこんな面白さが潜んでいたなんて。

  (これもアルベル様のお陰だ。)

アルベルはこうしていつもアランの世界を広げてくれる。アランはアルベルを見守りながら、次はどんなパフェを作ろうかと考え始めた。

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■あとがき■
アランの場合、全て手作り。アイスは作り置きがあるんですよ。勿論、アルベルの為に。