小説☆アラアル編短編集---ピアス

アルベルは、アランの耳朶に紅い石のピアスが光っている事に気がついた。じっと見ていたらアランがそれに気付いた。

  「綺麗でしょう?」

女じゃあるまいし、と思いつつ、しかし、アランの白い肌に良く似合っていると思った。

  「鬱陶しくねぇのか?そんなの付けて。」

  「はぁ、石はもうずっと前から付けていますから。今まではアメジスト…紫色の石だったのですが。」

あれ程近くにいながら、アルベルはアランがピアスをしていた事に気付いてなかったのだ。まったくもって自分に関心をもたれてなかった事に、アランは残念そうな顔をした。だが、普段、相手の髪型が変わってても全く気付かないアルベルが、そんな小さなピアスに気付けただけでも上等だ。

  「前から、付けてたのか?」

アルベルは眉間に軽く皺を寄せ、小首を傾げた。そう言われればそうだったかもしれない。紫色の石だとアランの黒髪に紛れて見え難かったのが、今日は真紅だったから目に付いたのか。

  「ずっとこの色を探していまして。今日、やっと見つけて、さっそく付け替えたのです。」

そう言って嬉しそうに微笑んだアランを、アルベルは鼻で笑った。

  「フン。そんな石ころにこだわって、何が楽しい。」

おしゃれなどに殆ど関心のないアルベルには、到底理解しがたいことらしい。すると、アランはクスッと笑った。

  「この色、どこかで見覚えがありませんか?」

見覚えなどない。アルベルはきっぱりそう思った。

  「知らんな。」

  「鏡をご覧になったらお気づきになるのではありませんか?」

  「鏡…?」

アルベルはまだ気付かない。

  「これはあなたの瞳の色なのです。この色の石は中々なくて、見つけるのに随分時間がかかりました。」

言われて初めて気付いた。確かに自分の瞳の色は紅い。だが、そんなに綺麗な色だったろうか?

  「これは私があなたのものであるという印です。」

そう言ってアランはアルベルを見つめた。自分を真っ直ぐに見つめる紫色の瞳。その瞳には自分の紅い目の色が映っているのだろう。アランの白い耳朶にキラリと光る石のように。

目次へ戻る