「アルベル様、何をなさって…あ、危ないッ!」
「うわッ!」
アルベルは刀の刃に当てていた右手をアランにぐっと押さえ込まれた。
「おい、放せ!爪を切っているだけだ、邪魔をするな!」
アルベルはただ、刀の刃で爪を切ろうとしていただけだったのだが。
「駄目です!そんなやり方では、身を切ってしまわれます!」
「いつもこうやってんだ、大丈」
「私がいたします。」
「いい!それくらい自分で」
「いいえ!」
アランは有無を言わせず、アルベルから右手を取り上げて刀を仕舞わせた。
爪を切るにはそれ専用の爪切ハサミがあるのだが、これは普通のハサミより刃が分厚く、これを使うには握力が必要だった。火傷した左手ではそれを使う事が出来ないため、アルベルは刀の刃で爪をギコギコと削ろうとしていたのだ。これまでずっとそうして切っていたのだが、アランから見ればとんでもない光景だったようだ。
アルベルをソファに座らせると、アランは爪切ハサミを準備し、桶にお湯を汲んできた。
「さ、こちらにお手を。」
「何のつもりだ?」
「爪を柔らかくしてからの方が切りやすいのです。」
アランは湯にハーブ油を数滴入れ、その中でゆっくりとアルベルの手をマッサージし始めた。
ほのかな香りが漂い、湯の温かさとマッサージの心地よさにほんわかといい気分に浸る。
アランはアルベルの手が十分にぬくもったのを確認すると、アルベルの片手をタオルで軽く拭き慎重に爪を切り始めた。柔らかくなった爪が、指の形に沿ってツーッと切り落とされて、無残にもギザギザになってしまっていた爪が綺麗に整えられていった。
「さ、今度は足も。」
アルベルは綺麗になって、ほのかにいい香りのする自分の手を感心して見ながら、大人しく靴を脱がされ、されるがままに桶に足をつけた。
足がじんわりと温もり、アルベルは満足げに溜息をついた。指の一本一本、そして指の間までもアランの指によって揉み解され、疲れがすーっと湯に溶けていくようだ。
ただ、時々くすぐったくて、思わず足が逃げる度に、アランがくすっと笑った。
「動くと危ないですよ。」
爪を切られる間、アルベルはくすぐったいのをじっと我慢し、そうして切り終わった後、仕上げにタオルで丹念に拭き上げられた。
※
さあ終わったと、アルベルが足を引っ込めようとした時、それを優しく押し留められた。
「何だ?」
だが、アランはただ微笑むと、そのままアルベルの足の甲に唇を寄せた。
「!」
それは奴隷の仕草だ。アルベルはアランにそんなことをさせたくなくて、止めさせる為に足を引こうとしたのだが、ぐっと足首を掴まれてしまった。
「何をす…!」
アルベルはそのまま固まった。アランはそのままアルベルの足の甲の上に唇を滑らせたのだ。アランの舌が指の間に差し込まれた途端、ゾクンと痺れが走った。
「ッ!」
足をしっかりと捕まえられてしまっているので逃げる事が出来ない。いや、本気になれば逃げられるのだが、体がそれを望んでいないのだ。
アランはアルベルの足の指を咥え、指の間に舌を通し、足の裏まで丁寧に舐め上げた。
アランの舌がぺろりと刺激する度、それが足を伝って体の中心に響く。もっと直接的な刺激が欲しい。
足を舐めながらアルベルがウズウズとしているのを確認したアランは、愛撫を続けながら、やや大げさに畏まった。
「私はあなた様の忠実なる僕。あなた様のお望みのままに、何なりとお申し付け下さいませ。」
「…ッ……!」
「ご命令を。」
ここまでやっておいて、もう命令は一つしか有得ないのだが、どうやらアランはアルベルに直接言わせたいらしい。アルベルはアランから目を逸らしながら、ぼそぼそと命令した。
「……もっと上…だ。」
「はい。」
アランは腰布をはだけさせ、脛から膝までつーっと舐め上げた。そして膝を愛撫しながら次の命令を待った。するとアルベルは焦れて、語気を荒げた。
「もっと上!わかってんだろうがッ!」
だが、アランはそこでじっとアルベルを見上げた。
「…その前に一つお願いが。」
「…何だ?」
「夜の事です。どうか週3回、あなたに触れることをお許し下さい。」
早く続きをして欲しいということで頭がいっぱいだったアルベルは、『わかった』といい加減に返事しかけて、はっとそのとんでもない内容に気付いた。
「さ、3回だと!?多すぎる!1回でも多い!」
「そんな!せめて1回だけでも…」
「いつもいつも極限まで疲れさせられて、毎回次の日に響いてんだ。休みの前日だけで十分だ!」
休日など月に数回あるかないかだ。全くない月だってある。
「それは、あなたに触れられる回数が限られる為、ずっと我慢して、歯止めがきかなくなってしまうのです。でも機会が多ければ、そんなに疲れさせてしまうことは……ないかもしれません。どうかお願いです。」
アランはアルベルを悲しげに見上げて懇願したが、
「駄目だ!」
とキッパリ拒否されてしまった。アルベルが和んでいるのを見計らってお伺いをたてるという作戦だったのだったが、欲を出し過ぎたのがまずかった。
しかし、すんなり受け入れられないだろうというのは想定内だ。アランはすぐに次の作戦に切り替えた。
「それでは、チャンスを下さいませんか?」
「チャンス?」
アランはつと立ち上がり、引き出しから砂時計を取り出して、それをことんと机の上に置いた。
「この砂が落ちるまでの5分間に、私があなたをいかせることができたら、私の勝ち。週3回をお約束して頂くという賭けです。使うのは手だけで、他への愛撫は一切無し。…いかがでしょうか?」
アルベルの好きな勝負事を持ちかけながら、ちゃっかりアルベルに触れる作戦で、しかも勝ったらオイシイ特典付き。しかし、
「週1回だ!」
アルベルの頑なな表情にアランは諦めて譲歩した。
「…では、1回。」
「…ふん、いいだろう。」
手だけなら5分間我慢するくらいわけない。アルベルは軽く考えていた。
「それでは。」
アランが砂時計を引っくり返した。砂がサラサラと落ち始める。
「ふふ…。」
アランは直ぐに取り掛かると思いきや、余裕たっぷりにアルベルの横に座ってきた。そして、左腕でアルベルの腰を抱き寄せて、寄り添うように横向きに座ると、そっとアルベルの耳元に口を寄せた。
「5分くらいなら我慢できると思われたのでしょう?」
その含みを持たせた口調に、アルベルは訝しげに自分の間近にあるアランを顔を見ると、深い紫色の瞳にぶつかった。
「…どういうことだ?」
アランはじっとアルベルを見つめながら、アルベルの股間に下着の上からそっと手を置き、くすっと笑った。
「勝算のない時間を、私が提示するとお思いですか?」
「な…!」
その瞬間、アルベルはアランに射精されてしまう自分を否応無く予感させられ、ぐんと股間が昂ぶった。それを手の平で感じて、またアランが笑った。
「まだ触れただけですよ?」
「う、うるせぇッ!余計な事言わずに、さっさと始めろッ!」
「遮ったり、逃げたりするのは反則ですよ?」
アランの柔らかい声で囁かれると、まるで愛の囁きの様に聞こえる。その艶っぽい声を聞くだけで、アルベルの体がぞくぞくと痺れる。アルベルはそれを振り切るように声を荒げた。
「わかってる!」
それから地獄の責め苦が始まった。
下着を下ろされ、アルベルを握りこんだアランの手がゆっくりと上下している。まだ砂は半分も落ちていないというのに、アルベルのそこは完全に固くなり、先端は透明な体液で濡れてしまっている。先程の足への愛撫が効いているせいで、かなり敏感になってしまっているのだ。
「我慢なさればなさるほど、それを放出した時の快感は高まります。5分間分の我慢を一気に解放したら、その快感はどれだけ凄いのでしょうね?」
「!」
その途端、アルベルの先端から透明な体液がどっと溢れ出てきた。射精のあの快感を体が再現したがっているのだ。
「こんなに濡らしてしまったら、快感が増してしまいますよ?」
そんなことを言われても、止めようが無いのだ。アランは人差し指と親指で先端の膨らみを摘むと、その指を滑らせ始めた。指の腹でヌルヌルと刺激され、急速に追い詰められていく。
「ッ!!」
アルベルは切迫しながら、縋るように砂時計を目で探した。砂がなくなっていて欲しいという願いも虚しく、まだ半分しか減っていなかった。
砂時計の砂は、忌々しいほどゆっくりと静かに落ちている。
その時、アランの指がぬるんッ!と勢い良く滑った。
「は…くッ!!」
爆発の危機が迫り、アルベルが思わず腰を浮かすと、アランが急に手を止めた。
「ッあ…は…ぁッ!はぁはぁ…」
なんとか危機一髪で爆発を堪える。呼吸を整えて、ふとアランの手が止まったままなのに気付いた。一体はどうしたのかと目を開けると、アランはアルベルをうっとりと見詰めていた。
「必死で耐えるお姿はそそられます。」
アランの口元から紅い舌がチラリと覗く。それを見た瞬間、アランの熱い口腔内で嬲られる記憶が一気に甦った。
「くッ!!」
目を瞑って唇を噛み締め、再び必死で耐える。何とか別のことを考えて気持ちを鎮めようとするが、そこへ容赦なくアランの声が忍び込んでくる。
「こんな賭けなどなさらなければ、我慢をする必要などなかったのに。」
アランは、アルベルの体液がたっぷりと絡みついた手で上下に扱き始めた。
「出したいでしょう?」
出したい。
「もう出されてしまってはどうです?ほら、ここから…。」
アランの指先が、射精を誘発するように先端をくるくるとくすぐった。
「うあッ!!」
アルベルは思わず体を捻って逃げようとしたが、アランの左腕でしっかりと捕らえられ、
「逃げないで。」
身動きできない耳元でのアランの囁きが吹き込まれた。
「はあッはあッはあッ!!」
アルベルの呼吸が浅く激しくなる。どうあってもこの愛撫から逃げられない。その束縛感が更なる快感を誘う。
最早、賭けなどどうでもよくなっていた。
本当にもう、放出してしまいたい。
その願望が、素直にアランの手の中に現れた。
「そろそろ限界ですか?」
既に限界を遥かに超えていたのだが、アルベルはそれでも強がって首を横に振った。すると、チラリと砂時計をみたアランは、アルベルに止めをさしにかかった。
「これでも?」
アランはアルベルを激しく擦り上げ、最後に指の腹で先端をきゅうっと摘むようにした。
「あッ!!」
アルベルは鋭い叫び声を上げ、全身を痙攣させながら、大量の白濁を放出させた。
射精の最中もアランの手はゆっくり動き続け、気の遠くなるほどの快感の中で、何度も何度も吐精させられた。
「アルベル様。私の勝ちです。」
荒い息をつきながらアルベルが目を開けて砂時計を見ると、それは今まさに最後の砂が落ちるところであった。
「それでは、約束です。」
アランがアルベルの頬にキスしながら嬉しそうに笑った。その笑顔が、思わず見とれてしまうほど綺麗なのが、今は癪にさわる。
「この俺を…コケにしやがって…このまま…やられっ放しと思うなよ…。」
乱れる呼吸のせいで、言葉に力が入らない。そして、脅したつもりなのに、アランはますます嬉しそうになり、脱力しきって立ち上がれないアルベルを軽々と横抱きに抱き上げた。
「はいvvそれではベッドへ参りましょうかvv」
「…なんで…そうなる?」
「やり返して下さるのでしょう?いつも仰っているではありませんか。やられたら、必ずやり返すと。しかも、倍返しでvv」
※