小説☆アラアル編---駆け引き〜Albel side

どういうわけか、この男は自分を好きだという。いきなり自分の前に現れて、やたら付きまとってくるとは思っていたが、まさか男である自分にそういう感情を持たれているとは考えもしなかった。 自分はこの男に何をしたわけでもない。なのに、何かの冗談かと疑う余地もなく、命懸けで心をぶつけてきた。その事にひどく戸惑う。

一体、自分にどうしろと言うのか。受け入れる気はないと突っぱねようにも、賭けに負けたせいでそれが出来ない状況にあった。

自分は今、アランの所有物になってしまっているのだ。

そこでアルベルは、兎に角アランの気の済むようにさせておくことにした。その内飽きれば、離れていくだろう。それまでの辛抱だ。

辛抱…?いや、実際は、それ程我慢を強いられることはない。アランがアルベルの家に住むようになってから、実にいい事尽くめだ。

まず、常に雑然と散らかっていた部屋がすっきりと片付いていった。ウォルターが、アルベルの家の燦燦たる状態を見かねて、定期的によこしていた家政婦が毎度溜息を付く程、アルベルの散らかす速度は恐ろしく速かったのだが、アランの片付け速度はそれを遥かに凌いだ。ポイと打ち捨てた物が、次に見たときにはには消えている。アルベルは綺麗に花まで飾られた我が家を眺め、この家はこんなに広かったのかと感心した。散らかし魔のアルベルも、やはり手入れの行き届いた部屋の方が好きなのだ。

料理も最高に美味いし、洗濯も掃除も面倒なことは全部してくれる。こんなに便利な事はない。夜の事も、男にあれこれされるのは戸惑いはあったが、どういうわけかアランに対しては嫌悪感はなかったし、性欲を満たされる点では満足させられている。

ただ、どうにも気まずいのが難点だ。このアランには夜のあられもない姿を見られているのだ。ものすごい弱みを握られた気分だった。アランはそれでどうこう言ったりは決してしないし、必要以上に干渉したりもしてこないのだが、しばしば自分に向けられる熱い視線に耐えられなくなってくる。じろじろ見るなと睨みつけても、恋の熱視線には到底敵わない。あっという間にその感情に飲み込まれそうになるので、最近は目を合わせるのを極力避けるようにしている。

それと、もう一つ。

アランが部屋を片付ける際、家具を移動させても良いか、棚や引き出しの中味をあれこれ触ったりしてもよいかとの許可を取りにきた。そのとき、確かに「いちいち聞くな。好きにしろ。」とは言った。

家具が部屋から部屋へと、思った以上に大移動したまでは、まあいい。しかし何も、その中味をこれ程頻繁に変えることはないのだ。昨日この引き出しに入ってたはずのものが、次の日には別の引き出しへと移されている。

そして今や、どこに何が置かれているのか、アルベルには全くわからなくなっていた。好きにしろと言った手前、今更それに文句をつけるのも何だと、しばらくはあちらこちらの引き出しをイライラと探しながら我慢していたが、もう限界だった。アルベルは風呂上りの腰にタオルを巻いた格好でアランに怒鳴りつけた。

  「おい!ここにあった寝巻きはどうした!?」

するとアランは、怒られているのにも関わらず、何故か嬉しそうに隣の部屋からそれを持ってきた。

  「はい、こちらに。」

アルベルはそれを受け取ろうと手を伸ばしたが、アランはそれより先に、畳まれていた寝巻きをさっと広げた。そして、アルベルの背後にまわり、袖を通し易いように広げる。その自然な動作に、アルベルはついつられて素直に手を通してしまった。しかし、前紐を結ぼうとしてきた手は拒否しながら、アランをじろりと睨み、この状況の説明を求めた。

  「なんでわざわざそっちに移した?」

  「申し訳ありません。どう配置したら機能的か試行錯誤しているのです。しばらくの間ご不自由をお掛けしますが、どうかお許し下さい。」

アルベルが脱ぎ捨てたタオルを拾いながら、申し訳なさそうにそう言われれば、そんなものかと納得せざるを得ない。そして、

  「何かお探しでしたら私にお申し付け下さい。」

と言われれば、元来面倒くさがりなアルベルが、自分で探すよりもアランに聞く方を選択するのは当前の成り行きだ。

そうしていつの間にか、この家の事は何でもアランに聞くようになっていた。

アランがそうなるように仕向けていたなど、アルベルが気付く由もなかった。

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■あとがき■
今の段階で、アルベルはアランを嫌っているわけではないけど、全然好きではありません 。アランの思いに、戸惑っている状況。