小説☆アラアル編---王の結婚式

両国の関係修復を兼ねて、双方の協力のもと、各地の復興事業が行われた。

そして今回の戦争で、最も被害の大きかったアリアスの復興を終え、それまで延期されていたアーリグリフ王とロザリアの結婚式がアーリグリフで行われる事となった。




結婚式の朝、アルベルは父から譲られた礼服に身を包んだ。左腕にはガントレットの代わりに、白いグローブがはめられている。黒い生地に金糸の刺繍が施されており、喉元まで詰められている襟で、アルベルの肌の白さが引き立たち、もともと華奢な体が一層際立った。いつも二つに分けている髪も、今日は一つに束ねているので、しっとりと落ち着いた雰囲気が漂う。

アランはそのスラリと気品溢れる姿に見惚れた。

いつものような露出の多い服ではなかったが、いつもは晒されている部分が隠されていることで、余計に脱がせてみたいという気を起こさせる。

アランの礼服は白を基調としたもので、アルベルと並ぶと白と黒の対となっていた。

  「かったりぃな。ふけちまうか。」

アルベルは詰襟に指を引っ掛けながら呟いた。

  「そうですね。私もお供致します。どちらに行かれます?」

アルベルはウキウキとそう言ってきたアランをちらりと見て、

  「冗談に決まってんだろ。」

と溜息をついた。

いつもながらアランはどこまでが本気でどこまでが冗談かわからない。冗談だろうと思っていたら本気で行動に移そうとして、慌てて止めたこともある。逆にアランの言葉にギョッとしたら、冗談ですよとニッコリ笑って、こいつッと思ったこともあった。

  (全くこいつは。時々何を考えているのかわからん!)

そう思いながらアランを引き連れて式場に向かった。






周囲の女性から熱い視線が集まる中、二人がアーリグリフ城内を歩いていくと、クレアとネルを含むシーハーツの一団と出くわした。

  「アラン様!!」

アランの優しい笑顔にクレアの胸がズキリと疼く。諦めなくてはと思っても、どうしても感情がついていかない。

だが、それを心の奥底に隠し、心の号令をかけて背筋を伸ばした。

  「わ〜い。アラン様だ〜!」

アランはあっというまに女達に取り囲まれた。

輪から外されたアルベルは、アランに一瞥をくれたが、そのままアランを置いて先に行ってしまった。アランがその背を一瞬寂しそうに見送ったのをネルは見逃さなかった。

  「お久しぶりですね。」

アランは気持ちを切り替えてクレアとネルに向き直りにこやかに挨拶をした。

  「はい。おかげさまでアリアスは以前よりも活気に溢れ、各地からも多くの人々が集まってくるようになりました。」

クレアは感情を殺して、ごく普通にアランに挨拶をした。ネルはそんなクレアを複雑な思いで見守った。

  「そうですか。」

  「アラン様のお陰です!」

と周囲から口々にアランに礼を述べた。

  「皆さんのお力があったからこそ、こうして両国にとって良き日を迎えられたのです。さあ、もうすぐ式が始まってしまいます。参りましょう。」

女性軍を引き連れるように式場に入ったアランは、当然皆の注目を引いた。

アルベルもその様子を見てフンと鼻を鳴らした。

  「それでは。」

と女性軍と別れたアランは、そそくさとアルベルの隣の席へと向かった。

アルベルの傍にきて、人心地ついたようにふっと溜息をついた途端、アルベルに、

  「華やかな入場だな、色男。」

と厭味を言われ、アランは少々腹を立てた。

  「自分の感情を殺して、立派に義務を果たしてきたというのに。」

とアルベルを熱く見つめながら言うと、アルベルがフンッと笑った。頭では、アランの行動が正しいことも、アランの言葉が本当だということもわかっていたが、なんとなく自分をほったらかしにしたことが面白くなかった。

  「ほお?」

  「私が少しも望んでいない事で、周囲から色々と言われるのはもううんざりです。」

そしてアルベルに顔を近づけて、

  「ここであなたにキスして周囲に私の本心を見せ付ければ、もうこんな思いをしなくて良くなるのですが。」

周囲に聞こえないように小声で言うと、アルベルの目を覗きこんでニッコリ笑った。

  (こいつ、本気だ。)

アルベルは背筋に冷や汗を感じながらアランを睨みつけた。

  「そんなことをしやがったらぶっ殺す!!」

低く押し殺した声での威嚇に、

  「残念。」

とアランは肩をすくめて諦めた。






荘厳な式が終わって、城下町中お祭り騒ぎで、シーハーツもアーリグリフもなく賑わっている。

城内では王と王妃を囲んで、身内だけの気楽なパーティーが行われた。

席に付いて食事をしている者もいれば、杯を片手に席を立ってアチコチと話をしているものもいる。

その席で、当然のようにアランの周りに女達が集まって来た。その隣でアルベルはイライラとしながらも我慢していた。

最初は、あの歪みのアルベルということで近寄るのを遠慮していた女達も、人数が次第に増えるにつれ、押し合い圧し合いし、ついにアルベルにぶつかって、とうとうアルベルが切れた。

  「邪魔だ、クソ虫ども!」

アルベルの怒声に女達はシーンとなった。

そしてアルベルは、その怒りの矛先をアランに向けた。

  「おいアラン、こいつら全部引きつれてあっちへ行け!」

アランは、そんな!と言いかけたのを寸での所で飲みこみ、

  「…はい。」

溜息と共にしょんぼりと返事をした。

  「何あれ。感じわるーい。」

  「アラン様、こっちで楽しくやりましょうよ!」

女達はアランの腕を引っ張り、クレアが座っている所へ引きずるように連れていき、それと入れ替わるようにネルが向かいの席にやってきた。

  「すごい人気だねえ。」

  「うむ。今日の主役の座を取られてしまったな。」

そう言いつつも王は上機嫌で、アルベルに話しかけてきた。

  「アランは、余程、お前を慕っている様だな。」

  「ゴホッ!」

王の発言に、アルベルとネルは同時に酒を噴出しそうになった。

  「二人の性格は裏と表くらい全く違うのじゃが、不思議とかみ合っておるようですな。」

  「そうだな、ウォルターよ。お前とグラオもそうだった。二人は最強のコンビだったな。正直、俺はそれが羨ましかった。アルベルとアランを見ているとよくそのことを思い出す。」

  「わしとしては、いつもグラオの尻拭いばかりしておったような気がしますがの。」

  「ははッ!確かにそうだったな。グラオは絶対に自分を曲げなかったからな。周囲との摩擦も大きかった。アルベルもしっかりとそれを受け継いでいるな。」

  「こやつが生まれて、グラオとあまりのそっくりさに、わしは眩暈がしましたわい。」

  「はははッ!だが、アルベルが生まれてからは、グラオも随分落ち着いたもんだった。どうだアルベル、お前も結婚してみないか?」

  「…俺はいい。」

  「そうか?俺はお前の子供を見てみたいがな。」

  「…ジジイの禿が進む。」

アルベルの一言に、どっと笑いが起こる。

  「いやいや、ウォルターにとっては、孫の顔をみるようなものだろう。なぁ?」

  「もし子供が出来たとしたら、まず、大事なものは全て手の届かぬところに隠しておかねばなりますまい。そして花瓶が粉々になろうと、屋根に風穴があこうと、何事にも動じぬ覚悟が必要になりますな。」

  「まだ、覚えてやがるのか。まったく嫌なジジイだ!」

それらは全て、アルベルが子供の頃にしでかしたことだった。

  「まだまだ、モウロクはしておらんぞ。お前が逃がしたルム達が町中を駆けまわり、大混乱になったこともしっかりと覚えておる。」

  「ぐ…!」

王の隣で話を聞いていたロザリアがおずおずと王に話してきた。

  「…なんだかお聞きしていた噂とは、全然印象が違います。」

  「アルベルは不器用な奴だからな。口は悪いが、心根は正直で真っ直ぐだ。」

アルベルは居心地が悪くなった。

  「こんな風に無愛想に見えて、実は可愛いところがあるのだ。なあ、ウォルターよ。」

  「ちと誉め過ぎですぞ。」

  「俺の話はもういい。他に話す事はいくらでもあるだろう?」




女達からの質問攻めに、アランは愛想笑いを浮かべつつ適当に答えてはいたが、アルベルに追い払われたことに心は沈んでいた。

アルベルに頻繁に視線を送るが、こちらを見ようともしてくれない。アルベルは王やウォルターらと何やら話しており、それにロザリアとネルも加わって、時々笑い声が起こっている。アランは、どうして自分がこんなところにいるのかと、なんだか悲しくなってきた。

クレアがそんなアランの様子に気付いた。

  「どうしました?なんだかお元気がないようですが。」

  「はあ。」

とそこへ、うきうきとファリンが飲み物を持ってきた。

  「アラン様〜。これどうぞ〜。」

アランは嫌な予感がしてためらっていると、

  「止めた方が良いですよ。それ媚薬入りですから。」

タイネーブがあっさりとネタをばらした。

  「あ〜!ばらしちゃだめ〜!!」

クレアがそれを聞きとがめた。

  「媚薬?ファリン、あなた何を考えているの!?」

  「えへへ〜。とっても、いいことですぅ〜。」

  「どうせ効果ないって。」

  「やってみないとわからないも〜ん。ね、飲んでみてくださ〜い。」

表面はのほほんとしながら、腹に何を抱えているかわからない。そんなところが自分と似ており、そのためアランはファリンが苦手だった。

  「遠慮しておきます。」

とアランはキッパリと断った。

  「え〜!つまんないの〜。これを飲んで、私の事好きになって欲しいのに〜。」

  「ファリン!アランにはもういい人がいるんだってば!ネル様、言ってたじゃない。」

タイネーブの言葉にクレアの胸がズキリと疼く。

  (そういえば、アラン様の好きな方ってこちらにいらっしゃるのかしら。)

  「だから〜これで、私に惚れてくれればな〜って。」

  「馬鹿なこと言ってないで!ほら、そんなの捨ててらっしゃい!」

  「は〜い。」

クレアの命令に、ファリンはしぶしぶと退却した。

  「全く何を考えているのか…。でもあの子、普段はああですけど任務はきちんとこなしてくれるのですよ。」

クレアはファリンをさりげなく弁護した。



  「ねえ、そういえば、アラン様のいい人ってどの方ですか?」

部下達がきゃわきゃわと騒ぐ中、クレアは心の中で耳を塞いだ。

  (聞きたくない。)

アランの思い人を目の当たりにして、笑顔を保てる自信がない。表情は平静を保たせつつも、心の中では言わないでと叫んでいると、

  「秘密です。」

アランはその質問をサラリとかわしてくれ、クレアは密かに胸を撫で下ろした。アランに恋人が居るのはわかっている。でも今は知りたくない。

  「ええ〜!!じゃ、ヒントだけでも!」

  「もう、いい加減にしなさい。アラン様も困っていらっしゃるでしょう?」

クレアは半分自分の為にそう言った。




ネルはさっきからアルベルが気になって仕方がなかった。アルベルは頬杖をつき、やや目を伏せ、頬を赤らめて、気だるそうにしている。それがなんだかとても色気を含んでいて、つい視線がそちらに行ってしまう。

  (こいつ、結構、睫毛長いな。指も細くて長い…。こいつって、こんなに綺麗な顔してたっけ?)

いつもは長めの前髪の向こうからギラギラとこちらを威嚇してくる紅い瞳も、今は何だか熱っぽく潤んでいる。正装して、いつもと全然様子の違ったアルベルを見ると、何だか別人のようで落ち着かなかった。

  「アルベル、どうしたのだ?」

と王が声をかけ、アルベルが目を上げた。そのとろりとした目つきにネルは良からぬ想像をしてしまう。

  「酒に飲まれるとは、全くだらしないのう。」

アルベルはあまり酒に強くないらしい。

  「うるせぇな…。」

アルベルは席を立とうとしてふらついた。

  「大丈夫か?」

  「ああ。」

フラフラと窓際へ歩いていき、床に座り込んで壁にもたれた。

  「熱い。」

動悸が段々激しくなってきている気がする。その上、体が痺れるように発熱し出した。アルベルは胸をはだけさせ、壁にしなだれかかった。その悩殺的な格好に、周りからちらりちらりと熱い視線が絡み付いてくる。

そんなアルベルの異変にアランが気付いた。

  「ちょっと失礼。」

と話の途中で立ちあがってアルベルに駆け寄り、残された女達は何事かとそれを見送った。

  「どうしたのです?」

  「知るか。…急に…熱くなって…きやがって…。」

しゃべると息が上がるようだ。

  「飲み過ぎたのですか?」

アランが額に手を当ててきたのを、アルベルは重い腕を上げてやっと払いのけた。本当はひんやりとしたアランの手が気持ちよかったのだが、周囲から視線が集まっているのを感じていたのだ。

  「そんなに…飲んでねえ。」

  「水を取ってきます。」

とアランは、アルベルの席に水を取りに行って、そのグラスに目が止まった。

  「これは…。」

さっきファリンが自分に持ってきたグラスだった。

  「アルベル様。ひょっとして、これを飲まれたのですか?」

  「ああ。」

様子を見にやってきたクレアがはっとファリンを振りかえった。

  「あなた捨ててなかったの!?」

  「だぁってぇ〜。せっかく作ったのに〜。」

  「どうしたんだい?」

と聞いてきたネルにクレアは事情を耳打ちした。どうやらファリンは、媚薬入りの酒を捨てるのが惜しくなって、こっそりアランの席に置き、それをアルベルが飲んでしまったらしい。

アランはぐったりとしたアルベルの肩に腕をまわして立たせようとしたが、足に全く力が入らないようだったので、

  「失礼します。」

と一言断ってからアルベルを横抱きに抱き上げた。

  「うわッ!!」

皆の見ている前でこんな抱かれ方をされるのは、アルベルにとってとても耐えられる事ではなかったのだが、抵抗しようにも力が全く入らなかった。

  「降ろせ!自分で歩く!」

  「無理です。どうか、しばらくのご辛抱を。」

薬のせいだけでなく顔を真っ赤にしているアルベルを、アランは軽々と抱えて別室へ運んでいった。

アルベルの、普段からは全く想像出来ないほどの壮絶な色香を見せ付けられ、事実を知っているネルは二人のそういう関係を垣間見てしまった気がして、ドキドキモヤモヤと沸き起こる妄想を必死にかき消した。そして、

  「な〜んか、色っぽ〜い。」

と、のんきに言ったファリンを、ネルは思いっきりどついた。




アランはアーリグリフ城に割り当てられている自分の部屋にアルベルを運んだ。当然アルベルにも部屋はあるのだが、元々アルベルはカルサアに駐在する事が多いのであまり使っておらず、用があって城に来た時はアランの部屋に入り浸っていた。アランの部屋ではお茶が出たり、代わりに書類関係の仕事をやってもらったり、ゆっくりと安心して昼寝が出来たりと、アルベルにとって、何かと便利で居心地のいい場所となっていた。

  「熱い…。」

アランがアルベルをソファに降ろすと、アルベルはすぐ寝転がろうとしたが、アランはそれを押し留めて服を脱がせ始めた。

  「お待ち下さい、アルベル様。礼服が皺になってしまいます。」

アルベルは下着一枚にされ、アランに渡された水を飲みながらベッド端に座って、アランが服を片付けるのをじーっと食い入るように見ていた。水で多少は体が冷え、お蔭で少しは力が入るようになってきたが、今度は股間の熱が急激に高まり始めていた。

アルベルはコトッとグラスを置くと、服を掛け終えて近寄ってきたアランにいきなり抱きつき、乱暴にソファに押し倒した。

  「アルベル様?」

驚いた様子のアランの上に無言で跨り、有無を言わさず服を脱がせ始めた。そして、そうする内にアルベルの股間が完全に張り詰めてしまった。

アランがそのことに気付き、それに気を取られていると、アルベルはアランに覆いかぶさり、その白い首筋にガブリと噛み付いた。

  「ッ!」

アランは一瞬痛みに顔をしかめたが、すぐに付いた歯形をなぞるように熱い舌がねろりと絡みついてきた。アルベルの荒い息とさらさらとくすぐる髪の感触、そして舌の感触にアランはゾクリと身を震わせた。

思わずアルベルの体に手を滑らせたが、アルベルはそれを払いのけ、今度は頭を起こしてアランの顔を覗き込んできた。

その潤んだ紅い瞳に理性が吸い込まれそうになる。すると、アルベルがゆっくりとアランの首を締め始めた。

  「アラン…お前は誰のものだ?」

じわじわと血管を圧迫され、息苦しさが募ってくる。

だが実際はアルベルの方が苦しそうだ。喘ぎながら、力の入らぬ手でアランの首を押さえつけている。その火照った体、唾液に光る唇が実に艶かしい。

  「アルベル様、あなたのものです。」

だが、更に力が込められた。頭がぼーっとなり、どくんどくんという脈の音が頭に響きはじめた。

  「ふん!どうだかな!いっそこのままお前を殺してやるか?」

大勢の女達に取り囲まれていたアラン。それに対してアランが優しげな笑顔を向けていた光景は不愉快以外の何物でもなかった。

  「お好きに。私の全てをあなたに捧げます。」

アランがそう言って微笑むと、アルベルは急に手を放して、倒れこむようにアランに再び覆いかぶさり、その体に荒々しく赤い印を付け始めた。

アランはしばらくされるがままになっていたが、アルベルの普段からは考えられない行動にどうしようもなく感情が昂ぶり、アルベルの唇が乳首に到達した所でとうとう我慢がきれ、アランは身を翻してアルベルに圧し掛かった。

アルベルがアッと思ったときには、もうその口はアランの口で塞がれてしまっていた。 アランの舌がアルベルの口内を巧みにくすぐる。それだけでもうイッてしまいそうだと思っていたら、アランの膝がアルベルの股間に擦り付けられた瞬間、本当にあっという間に下着の中で達してしまった。

  「はぁッはぁッはッ…」

ぐったりと横たわるアルベルを目で愛しながら、アランは急いで服を脱いだ。そして、ゆっくりと楽しみながらアルベルの下着を剥ぎ取った。一度精をほとばしらせたというのに、そこは全く衰える気配を見せていない。

  「媚薬の効果ですか。」

そう言いながら、そこを手で包んだだけで、また先端から白濁が溢れ出した。アルベルはもうどうにでもしてくれといった状態だった。

  「これは強力ですね。」

  「う…。」

  「そう言えば、媚薬を飲まれたのはこれが2度目ですね?」

カルサア修練場で疾風の兵士達に姦されそうになったときのことだ。

  「あの時はどうやって処理されたのですか?」

  「き、聞くなッ…!」

  「聞かせて下さい。私はあの時、どうしてあのままあなたを放って行ってしまったのかと、本当に後悔しました。」

その間にもアランの手がアルベルの下腹部を這い回る。

  「ご自分でなさったのですか?」

  「どうでもいいだろうが、そんなことはッ!」

するとアランの手がアルベルから離れた。

  「な…!」

  「私にとっては大切なことです。あの後あなたがどうなされたのか、あなたの姿を何度も想像しては気が狂いそうになっていたのですから。」

アランの細い人差し指がつーっとアルベル自身をなぞってまた離れた。溢れた体液がアランの指を離すまいとするかのように糸を引いている。アランが指をゆっくりと離していくと糸がたわみ、途中でふつりと切れた。するとまたアランはアルベルを指で撫でて体液を絡みつけ、つっと糸を伸ばした。

それだけでもう次の限界がやってきた。早く解放したい。だが自分の手では嫌だ。アランによってでなくては、最高の満足は得られないことを体が覚えてしまっているのだ。だがアランはアルベルが答えるまで手を出す気はないようで、アルベルの股間を見つめながらじっと答えを待っている。

その視線すら堪らない。

  「じ、自分でやったに決まってんだろッ!んなことはいいから、早くこれをなんとかしやがれッ!」

  「私がですか?」

アランはアルベルが自分でやっている所を見たかったのだ。それを察したアルベルは怒って怒鳴りつけた。

  「他に誰がいるってんだ!つべこべ言わずさっさとしろッ!お前じゃねえとイッた気がしね…」

勢いでつい本心を暴露してしまったアルベルは慌てて口をつぐんだが手遅れだった。アランは驚いたように目を見開き、次の瞬間には目を輝かせて、

  「はい!」

と嬉々としてアルベルの足の間に顔を埋めた。







次の日の朝、アランが歩いていると、向こう側からネルがやってきた。その後ろからトボトボとファリンがついてきている。

  「お早う、アラン。」

  「お早うございます。」

  「アルベルは大丈夫だったかい?」

  「いいえ。今やっとお休みにならたところです。」

  「まだ具合が悪いのかい?それなら医者を…」

  「いえ、それは大丈夫です。ただ薬が切れるまで眠るどころではなかったものですから。」

見上げるアランの顔に少し疲れが見えた。

  「あんた、ずっと看病してたんだろ?あんたも休んだ方がいいんじゃないかい?」

確かに。あれから明け方までアルベルに付き合い、流石にくたくたになっていたのだ。

  「私のことはお構いなく。ただ、アルベル様は…。」

  「そうか。こいつを謝りに行かせようと思ってたんだけど、それなら後にした方がいいね。」

  「出来れば明日以降の方が。」

  「ああ、そうする。」

  「許して下さ〜い。え〜ん、私殺されちゃうかも〜。」

  「自業自得だろ!」

ネルとファリンのやり取りを聞きながら、アランは欠伸を噛殺した。やはり少し仮眠をとった方が良いようだ。

  「それでは。」

  「ああ。」

挨拶を交わして通り過ぎていくアランを見上げていたファリンは、あることに気付いた。

  「あれ〜?」

  「どうしたんだい?」

  「あ、いえ〜、何でもないです〜!」

  「いいかい!?明日になったらちゃんとアルベルに…」

ファリンはネルの小言を聞き流しながら、

  (あれってキスマークだよね〜?ということは〜、昨夜〜…でもアラン様、アルベルの看病してたから〜、その前からついてたのかなぁ?あれ〜でも〜昨日もあったっけ〜?)

昨日、見ていたなら気付いたはずだ。それくらいはっきりと赤くなっていた。

  (あ〜!さては〜!)

ファリンは、頭の中で手のひらを拳でぽむと叩いた。

  (看病してたなんて言って〜!本当は恋人の所に行ってたなぁ〜!も〜、アラン様ったら〜!)

  「わかったね!?」

  「はーい!…ところでネル様ぁ、アラン様の恋人って、どんな人でしょうね〜?」

  「あんた、ちゃんとアタシの話を聞いてたのかい!」

  「は、は〜い!」

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■あとがき■
シーハーツや王女をほったらかして、アーリグリフに来ているクリムゾンブレイド。そんなことしていいのか!?…あう〜あう〜…はッ!いいのだ。アドレーがいるじゃん!アドレーがいれば百人力!常識までも吹っ飛ばす豪快オヤジ!ホントにクレアの父親かよ!?