『お前が欲しい』
あの真面目なライマーが、まさかそんな告白をするとは思ってもみなかった。思い出したら、自然と笑みがこぼれた。
(参ったな〜。)
嬉しさが顔の表情だけに留まらず、「ふふっv」という声になって、カレルの口からこぼれた。
「…なんだ?」
ギクッ!!
アルベルの声に、カレルは文字通り飛び上がった。急いで現実に戻る。ここは団長室で、今は勤務中だ。団長席にいるアルベルが、怪訝な表情でこちらを見ている。
「あ、いや、あの、すんません、思い出し笑いで…。」
「さっきからニタニタしやがって、気色悪ぃ。」
「す、すいません…。」
カレルは赤面しながら、顔と気持ちを引き締めた。一枚の書類にサインをし、トントンと書類を揃えなおして、ふと思った。
今ライマーは何をしているだろう?
(アイツもにやけてたりして…。)
会いたい。今すぐにでも会いたい。そして―――
「おい。」
アルベルの声に、また正気に返る。今はにやけてなかったはず、と自分の状態をチェックしていると、
「これ、やっとけ。」
と、アルベルが立ち上がってカレルの机に書類の束をバサッと投げ渡してきた。その多さに、カレルは目を見開いた。
「ええっ!?俺、忙しいんすけど。」
「その割にはさっきから上の空じゃねぇか。」
「うぐっ…!」
「机に座っているのは飽きた。身体を動かしてくる。」
アルベルは書き仕事で凝り固まった首や肩を回しながら部屋を出て行った。
アルベルは以前は丸投げだった書類の仕事も、ちゃんとしてくれるようになった。カレル不在の間、人に押し付けていた仕事を自分でやってみてその大変さを知り、どうやら反省したらしい。
お陰でカレルの負担は随分減ったのだが、これはそもそもアルベルがやるべき仕事である。でもまあ、仕方がない。以前と比べたら、かなりの進歩だ。カレルは溜息を付きながらそれを手に取り、何気なく時計に目をやって驚いた。
(は!?もうこんな時間!?)
これは急いで終わらせなければ。ライマーがいつ誘いにきてもいいように。折角の誘いが残業でダメになるのは嫌だ。
(ああ、でもいかにも待ってましたってのは恥ずかしーな…。まあ…丁度終わりかけぐらいが理想だな…)
と、またぼんやりしかけて、ハッとした。
「集中!」
カレルは今度こそ集中して仕事に取り掛かった。
ところが、その日はライマーは誘いにはこなかった。
次の日も。また次の日も。
それが一週間になり、二週間になった。