小説☆カレル編---初恋3

ライマーは力の抜けたカレルを軽々と横抱きに抱えた。その力強さに、あの時のライマーの雄々しさを思い出し、胸が高鳴る。

見上げたライマーの男らしくすっきりとした顎のライン。ぽーっと見上げてたらライマーが見下ろしてきた。カレルは急いで目を伏せた。恥ずかしくて目など合わせられない。自分は今真っ赤になってるに違いない。明かりが薄暗くて助かった。

向かう先は当然ベッド。そこに優しく下ろされた。心臓の音がうるさい。ライマーにも聞こえてるのではないかと心配になるほどに。カレルはうろたえるのを隠すために目をつむり、少し顔を背けた。

ぎしっとベッドがきしむ音としゅっというシーツの音を立てながら、ライマーの気配が近づいてくる。

さらりと髪を撫でられ、指先が耳に触れた。カレルは思わず身をすくめた。たったこれだけで身体はもう…。

額にライマーの唇の感触。軽く、優しく…。目蓋、頬、そして唇へ。この間の息もつけないほどの濃厚なキスとは打って変わって、ついばむような柔らかくやさしいキス。ちゅっと軽い音を立てながら、互いの唇を吸い合い、うっとりとした甘い時間を過ごす。

『その手の話はしたくない』と、自分の経験について一切語ろうとしなかったライマーが、まさかこんなキスをするなんて、そして実はこんなにキスが好きだったなんて、全く知らなかった一面だ。ただ同時に、過去どこかの誰かともこうして夜を過ごしていたのかと思うと激しい嫉妬が沸き起こる。だが、今だけはこれは自分のものだ。

口が離れたので目をあけると、薄明かりの中で見下ろしてくるライマーとばっちりと目が合った。カレルは慌てて目を逸らした。猛烈な照れくささ。それを隠すために何か言おうとして、

  「なっ、なんかっ…この間と全然っ…ちっ、違うな…。」

と、取り合えず口から出た言葉に、今度はライマーが動揺した。

  「あれはッ!…………忘れてくれ!」

  「…な、なんで?」

それはどういう意味なのか。真意を探りたくてライマーを見つめると、今度はライマーは目を逸らし、恥ずかしくてたまらないというように片手で顔をこすった。

  「あの時は本当に!…本当にどうかしていたんだ!」

  「どうかしてた…って?どういう意味で?」

  「あんな自分本位な…!」

その先の言葉をライマーは飲み込み、自分を戒めるようにじっと目を瞑った。

  「あんな真似は…二度としない。」

  「なんで?」

良かったのに。というよりもむしろ、もう身体はアレを覚えてしまって、それが欲しいと今も狂おしいほどに疼いているのに。だが、ライマーはカレルの目をまっすぐ見つめ、

  「何ででもだ。」

と言い切ってしまった。そしてカレルの髪を優しく撫で、会話は終わりだというように、再び唇にキスした。



  (気持ちいい…)

この間の熱く激しい愛撫とは、まったく違った柔らかな心地よさ。ライマーの大好きな匂いと優しいぬくもりに包まれ、幸せすぎて泣きそうになる。ゆっくりと、だが確実に身体が高ぶってくる。それに従い、次第にじれったくなってきた。そこはもうライマーを欲しがってとろとろに蕩けているのに、ライマーは一向に来てくれない。

欲しい…早く!

カレルは堪らず身体をすり寄せた。だがその途端、ライマーはそれを遮った。

  「?」

夢見心地から一転、カレルはきゅうに不安になった。男の癖に甘えるように身体を寄せるなど、気色悪かっただろうか?

ライマーはしばらくそのままじっとしていたが、やがて上半身を起こした。離れた身体の間に外の冷えた空気が差し込んでくる。ライマーは溜息をついて言った。

  「すまん…今日は無理かもしれない…」

  「!?」

カレルの心臓が凍りついた。

  「な、なんで…?」

カレルはうろたえながら身体を起こした。やっぱりまずかった!?自分とのセックスは無理だと!?でも、腿に当たるコレは…!?熱く硬くなってると思ってたのは気のせいなのか!?カレルはそれを確認するため、急いで手を伸ばしてそこに触れた。その途端、

  「ッ…!」

ライマーが短くうめき、カレルの手のひらに熱いものがかかった。

  「すまん!」

ライマーは慌てて起き上がり、タオルを探して、それでカレルの手を拭いた。目を伏せたまま、こちらを見ようとしないライマーの顔をカレルはまじまじと見た。

  (無理って…そういう意味で…?)

  「すまん…本当に…情けない…!」

こんなに余裕のないライマーは初めて見る。目が合うとライマーは、やり直しとばかりにカレルを押し倒した。



だが、数分も経たないうちに愛撫の手が止まった。ライマーの方を見て、その理由がわかった。

  (寝てる…。)

カレルはふっと笑った。

  (ったく、仕事の途中で居眠りしちまうくらい疲れてたってのに、どんだけ無理してんだ…。)

しかも、途中だった仕事を放り出して、自分を欲しがってくれたのだと思うと頬がゆるむ。

  (仕事は最後までやれ!なんて、偉そーに言ってたくせにな。)

脱力しきったライマーの身体が重たい。だが、その重みが、そしてそのぬくもりが愛おしい。カレルはライマーの寝息が深くなるまで待ってから、そっと抜け出した。

部屋のランプを消して、月明かりに照らされたライマーの寝顔を見下ろす。キスしたい。だが、起こしてしまうかもしれない。このまま寝せておいてやりたい。カレルは自分に眠りが訪れるまで、ずっとライマーの寝顔を眺めていた。





朝、目が覚めるとライマーがいなくなっていた。

ベッドに一人残された自分。カレルはのろのろと起き上がりながら、

  「チクショウ…」

とつぶやいた。

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