小説☆カレル編---初恋4

  「…。」

しーんという音が聞こえる。それを聞いていると余計に孤独に感じる。カレルは溜息をついた。ライマーはベッドに一人取り残される気持ちがわからないに違いない。

どんなに寂しいか。

どれ程不安になるか。

ライマーはきっと笑顔で「お早う。」と言ってくれるはず…。だが、

  『すまん!』

ライマーが後悔していたと知ったときのあのショックを思い出す。でも、

  『お前が欲しい』

と、はっきりとそう言ってくれたではないか。昨夜だって、たくさんキスをしてくれたではないか。

  (…不安になる方がおかしいのか?)

だが現に今、不安で不安で仕方がないのだ。まだ早い時間だが、どこに行ったのだろうか?カレルがライマーのベッドを占領した時にはいつもそうしていたように、カレルの部屋に寝に行ったのだろうか?ひょっとしてもう仕事をはじめたのか?まさか、もうここには戻ってこない?

いろんな可能性が頭に浮かび、どうしようか考えた結果、少し待ってみようと決めた。

戻ってきて欲しい。だが、顔を見るのが怖い。

カレルは膝に顔を伏せ、ライマーが帰ってくるのを祈るような気持ちでじっと待った。





数十分前。

  (朝か…。)

窓から差し込む朝の光にライマーは目を覚ました。まだ眠り足りないが、二度寝したら頭がぼやけてしまう。仕方なく起きようとして、隣で眠る人の気配にハッとなった。見ると、カレルがこちらに横向きに眠っていた。

  (カレル…?そうだ、カレル!)

ライマーはガバッと起き上がった。二人とも裸の状態である事を確認する。

  (昨日…あれから…俺はどうした?ま…まさか寝てしまったのか!?)

自分がしでかした事に、ライマーは愕然とした。自分から誘っておきながら、自分だけ満足して寝てしまうなど、どれだけ身勝手な行為か。自分で自分が信じられなかった。

ライマーは激しい自責の念に苛まれながら、カレルの寝顔を見おろした。静かな寝息を立ててぐっすりと眠っている。カレルはいつもこうして小さく丸まって眠る。自分の殻に閉じこもり、一人で寂しさを抱えているような、そんなカレルの内面が表われているような気がして、その姿を見る度に切なくなる。

  (傷付けてしまっただろうな…。)

ライマーは額に手を当て、大きな溜息をついた。どうすべきか考えなければならないのに、寝起きのせいか、動揺しているせいか、恐らくはその両方だろうが、頭が回らない。

  (まずは、目を覚まそう。)

とにかく頭を冷やしたかった。ライマーはカレルを起こさないように、そっとベッドを出た。



浴場に行くと、まず水を頭から被った。その冷たさに身がすくむ。

この数週間、怒涛の毎日で、自分は相当疲れていた。だからといって、どうしてよりにもよって一番失敗したくない相手にこんな失態を犯してしまうのだろう。ケダモノのようにカレルの体を貪った最初の時といい、今回といい…。

あんな中途半端な状態で放り出してしまって、その後カレルはどうしたのだろう、と思って、次に何気なく浮かんだ『もしかして自分で…』という言葉に、はっと我に返り急いで水を被った。

  (何を考えているんだ、俺はッ!)

脳裏に浮かんでこようとするカレルの痴態を急いで消去する。ライマーは再び水を被った。邪な考えが流れ去るまで、何度も何度も。

だが、途中でその手がふと止まった。今まではこうやって無理やりしずめてきた。だが、既に一線を越えてしまった今、無理して押さえ込む必要はないのではないか。そんな考えがちらりと浮かんだ瞬間、止まらなくなった。今まで押さえ込んでいた戒めの蓋が弾け飛び、長年溜め込んでいた劣情が怒涛のようにあふれ出す。しかも、あの時の記憶と共にリアルに。

  『あっ…はあっ……ラ…ライマー…待っ……はっ…あっ…』

マズイ!いつ誰が入ってくるか分からないこの場所で、これはマズイ!!

水などでは到底間に合わなくなったライマーは、タオルで前を隠してトイレに駆け込みながら、自分の情けなさに激しく落ち込んだ。





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