むかしむかしあるところに羊の一家が住んでいました。
小さな家だけれど幸せに暮していました。
お母さんはいつものように子羊に言いました。
お留守番、頼んだよ。妹の面倒もちゃんとみるんだよ。
うん、任せといて。
お母さんが帰るまで、決してドアを開けてはいけないからね。
うん、わかった。
子羊は一人前になった気分で
妹と仲良くお留守番をしていました。
遊びつかれて眠っているとドアを叩く音がしました。
ドンドンドン
おや?誰だろう?
ここを開けておくれ。
お母さんの声じゃありません。
子羊は言いました。
お母さんから開けたらダメと言われているんです。
するとドアの向こうの声がいいました。
お前のお母さんが怪我をしたんだ。
それは大変だ。
子羊は急いでかんぬきを外してドアを開けました。
カタン ギギギギギギ
ドアを開けた子羊は驚きました。
なんとそこに立っていたはオオカミだったのです。
* * *
どけっ!どけよッ!!
自分に圧し掛かってくる黒い影を追い払おうと必死になってどかそうとするが、体が思うように動かない。
消えろーッ!!!
叫びながらやっとの思いで手を振り切ったところで、はっと目を覚ました。
黒い影は消え、代りに薄暗がりに浮かぶ天井の筋が目にうつった。
心臓が嫌な動悸をしている。額にはびっしょりと汗が浮かんでいた。
またあの夢。
何とか安息を得たくて枕に顔を埋めるも、そこにはもう心を落ち着かせる匂いはなくなっていた。
一旦開いてしまった記憶の扉は、あれから開いたまま。
ひょんな事で記憶が頭を過ぎり、その度に体が硬直し、嫌な汗が額に浮かぶ。
今までより過剰に他者からの接触が嫌になった。
そんな時に丁度疾風にこれて良かった。
ここでは漆黒では不自然であろう距離を保っても不自然ではない。
誰も自分の異常に気付かない…。
カレルは膝を抱えるように体を縮めた。
遠くで見回りの足音が聞こえる。
それが一つ、二つと増えていき、やがて朝になった。