小説☆カレル編---子羊2

オオカミは妹を食べようとしました。

子羊は必死でお願いしました。

どうか妹を食べないで下さい。

するとオオカミは言いました。

それならお前の内臓で我慢してやる。

子羊は仕方なく内臓を渡しました。

オオカミはそれをぺろりと平らげると帰って行きました。



子羊は大変なことになってしまったと震えました。

コケコッコー

夜明け鳥が鳴きました。

もうすぐお母さんが帰ってきます。

子羊は急いで 惨めなお腹を隠しました。

そして、一生懸命、自分に魔法をかけました。

ただの夢でありますように。

目が覚めたらお腹が元通りになっていますように。

布団に入って震えながら何度も何度も唱えているうちに、

いつの間にか眠ってしまいました。

そんな子羊を哀れに思ったのでしょう。

夜空の月が、眠っている子羊にそっと光を投げかけました。

すると、子羊は全てを忘れてしまいました。

* * *



カタン

耳にこびりついて離れない、あの音。

その瞬間、蘇った生々しい記憶。



何故、意味もなく不安に襲われるのか。

何故、自分を許せないのか。

何故、自分が汚い存在だと思えて仕方がないのか。

何故、質の悪いラム酒の臭いに吐き気がするのか。

やっとその理由がわかった。

何故今まで忘れてたんだろう。そして何故今頃になって思い出したのだろう。しかも、こんなに鮮明に…。

悔しさに震えが止まらない。あんな人間がいなければこんな思いをしなくてすんだはず。自分が大人だったなら、上手く切り抜けたはず。

…もしあの時、妹がいなかったら、自分だけだったら逃げられたのに。

  (やめろッ!)

ちらりとでもそう考えてしまう最低な自分をめちゃくちゃに殴りつけて殺してしまいたい。 「兄さんが世界で一番好き!」自分を慕い、愛してくれる妹の存在がどれ程の救いになっていたか。

なのにあの出来事が、その純粋な思いを歪んだ憎しみに染めようとする。

アイツは母親を恨めと言った。大好きな母を恨めるわけがない。それなのに、離婚なんてしなければ、あんな人間と関わらなければ…と恨み言が出てしまいそうになる。

何より許せないのは、嫌で堪らなかったはずなのに、痛くて気持ち悪くて仕様がなかったはずなのに、身体は…。

違う!嘘だ!そんなはずはない!

  『悦んでいやがる。』

そんなはずはない!そんなはずは…!!

  『淫乱なガキめ。』

こんな自分を消してしまいたい。

  (消えろ…消えろ…)

カレルはベッドの上で膝を抱え、呪文のようにそれを何度も唱え続けた。

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