小説☆アラアル編---告白

全身ぴかぴかに磨いた。鏡も、何度も何度も覗いた。

準備はとうに万全に整え終え、他にすることもなくなり、不安と緊張の中、日が沈むのをじりじりと待った。

そして夕闇迫る中、アランはアルベルの家の扉の前に立ち、恐る恐る呼び鈴を鳴らした。

ドクドクと跳ねる心臓の音を聞きながら待っていると、ガチャッとアルベルが扉を開けた。

そして、アランの顔を見た途端、溜息をついた。

  「ちッ!やはり来やがったか。」

呼びつけておいてその言い草はないのだが、アランは申し訳無い気持ちで一杯になった。とぼとぼとアルベルの後についていきながら、初めて見るアルベルの部屋着姿を鑑賞した。装備が全て外されたその姿は、また一段と細かった。ガントレットをしていない左腕には包帯が巻かれている。首当を外しているのを初めて見て、その首筋の美しさに見惚れた。




部屋に入り、アルベルは長椅子にどかっと足を投げ出して腰掛けた。そして、顎でアランに向かいの椅子を示した。アランは小さくなって椅子の端っこに座り、アルベルの横顔をみつめた。そして、そのアルベルの憮然とした様子に恐る恐る訊ねた。

  「あの、本当に…あなたを…下さるのですか?」

アルベルはギラリとアランを睨んだ。だが目が合うとすぐにそらし、顔を元に戻した。

  「てめえがそう言ったんだろうが!誰が好き好んで男と寝たりするか!!」

アルベルは、はっきりとした言葉で核心に触れた。

  「そんなに…嫌ですか?」

  「当たり前だ!ケツにぶち込まれるなんざ、考えただけでもぞっとする!汚ねえと思わねえのか!?」

  「いいえ、アルベル様でしたら、全く。」

キッパリそう言いきると、アルベルは二の句が継げずにいた。そこで、

  「でもそうですよね、それは止めておきましょう。それならいいでしょう?」

と譲歩すると、アルベルは更にぐっと言葉を詰まらせた。

  「私もしたことがないですし、あなたの体に傷などつけられませんから。」

それまで、アランと視線を合わせようとしなかったアルベルが、アランを睨みつけてきた。

アランの胸がドキンと疼く。

  「したことねえだと!?嘘をつけ!経験はあるって言ってただろうが!」

  「本当です。男と寝たことはありません。」

アルベルは少々驚いた。てっきり、アランは男が好きな種族だと思っていたからだ。

  「…女とできるんなら、女でいいじゃねえか。何で俺に…。」

  「でも、本気で恋をしたのは、あなただけなのです!」

アランは叫ぶように言った。そして切々とその思いを訴え始めた。

  「…寝ても覚めても考えるのはあなたのことだけ。あなたのたった一言で、私は天にも上る気持ちになるし、地獄に突き落とされたような気持ちにもなる。だけど、どんなに恋焦がれても、この思いは、あなたにとって迷惑にしかならない。苦しくて、苦しくて、…あなたの為に死にたいと思っていました。」

アルベルは正面からその熱い思いをぶつけられ、どう受け止めていいのか分らず、戸惑った。



  「…馬鹿じゃねえのか?」

ようやく搾り出した言葉に、アランは悲しげに笑った。

その表情に、アルベルはちくりと胸が痛んだ。

  (この表情―――。)

それは、病床にある母が、自分をやさしく撫でながら浮かべていたものと同じだった。

―――ああ、私の可愛いアルベル。ずっとあなたの傍にいたい。

  「ふふっ、あなたは恋をしたことがないのでしょう?…私も実際経験してみるまではわかりませんでしたから。」

アランは静かに話し始めた。

「これまで私は、相手の思いを簡単に切り捨ててきました。迷惑でしかなかった。あなたと同じように、別に自分でなくてもいいではないかと思っていました。だから『自分などより、もっといい人を好きになって下さい』と言って済ませ、それを言われた相手の気持ちなど振りかえりもしなかった。…でも、今ならこの言葉がどれほど無意味で残酷なものか良くわかります。好きになったら『他』などありえない。『あなた』が全て、それ以外は無いのですから。」

シーンと静寂の音が響く。

「…男に恋心を抱くなど、頭では間違っているとわかっているのです。でも、どんなに理性で抑えつけようとしても、心が悲鳴をあげるのです。…あなたが愛しい、あなたが欲しいと。」

アランが自分を見つめてくる。今度は泣いてはいなかったが、涙にならなかった分、一言一言に溢れる思いが強く込められ、それはアルベルにも十分伝わってきた。

アルベルは盛大に溜息をつき、首を振りながら諦めた。

  「…ちっ、わかった。てめえの好きにしろ。それで文句ねえんだろ。」

  「!!――はい!」

そして、アランはアルベルの家で一緒に暮らす事になった。

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■あとがき■
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