小説☆カレル編---つまらない物?レア物?(3)

祭二日目もつつがなく終了した。あと一日。明日のことを思い出して、ライマーはどんよりとなった。何で女装などしなければならないのか。

  (はあ、仕方がない…。)

集中が途切れたついでに時計を見た。今日は日中バタバタしていたので、随分遅くなってしまった。今日はもうキリのいいところでやめにして、仕事部屋を後にした。自室に向かう途中、風呂上りのカレルと会った。

  「はー、今日は疲れたー…。」

カレルは濡れた髪をタオルでガシガシと拭きながら言った。『漆黒の軍師と頭脳勝負!』で、何人もの相手と対局したのだ。結果、全勝。カレルは逆に面白くないといった。

  「早く寝ろ。明日も早いだろう?」

  「ああ、そーする。」

だが、そう言いながらカレルは自分の部屋の前を通り過ぎ、いつまでもライマーについてくる。もしや…

  「…俺の部屋で寝るつもりか。」

  「あたり♪」

カレルはにんまりと笑った。



部屋に戻り、手にしていた書類や本を机の上に置こうとして、見慣れない写真立が置いてあるのに気づいた。表は伏せてある。一体誰が置いたのだろうと、ひっくり返してみた。写真が入っている。それはウサギのぬいぐるみを抱いて眠る…カレル!?

  「なんだ、それ?」

カレルがひょいと横から覗き込んできた。カレルからはほのかな石鹸の香りがする。

  「何でお前…これ俺の写真…?」

これは賞品の一部になるはずだったのに、どうしてそれをライマーが持っているのだろう?もしかして…と、カレルはにんまりと笑った。

  「お前、こーゆーのが好きだったのか?」

ライマーは動揺した。

  「いや、違うっ!」

  「隠すな隠すな♪額にまで入れてくれちゃって。」

  「俺は知らん!」

  「こーゆーのが欲しいなら欲しいと、言ってくれりゃ、いくらでも」

  「違うと言ってるだろう!?」

勢いでつい大声が出てしまった。

しーん。

  「…そんなに、力いっぱい否定しなくてもいいだろ?」

カレルの傷ついた表情に、ライマーはしまったと思った。

  「あ…いや…そんなつもりは…」

  「ま、ぶっちゃけ、気持ち悪ぃよな〜。」

カレルはそう言いながらライマーの手から写真を取り上げ、己の姿を見て自嘲した。

  「30にもなったオッサンがこんな格好して、ぬいぐるみなんか抱っこしやがって。」

  「いや、そんな…」

そんなことはない。否定するなんて、そんなつもりもなかった。だが、カレルは写真を写真立てごとゴミ箱に捨てると、そのまま部屋を出て行こうとした。ライマーはカレルの腕を掴んで引き止めた。

  「待て!悪かった。」

だが、カレルは振り向いてもくれなかった。

  「謝るこっちゃねぇよ。」

  「気持ち悪いなんて一言も言ってないだろう?」

カレルはライマーの手を振りほどいた。

  「気ぃ遣ってくれなくていい。」

ライマーは再びカレルの腕を捕まえた。

  「だから、本当だ。寧ろ…」

ライマーははっとして言葉を止めた。その言葉をカレルに対して言うことを自分に許していない。カレルが振り向いた。

  「寧ろ…?」

カレルの腕から手を離し、目を逸らしながら、急いで別の言葉を探す。

  「いや…その…似合ってる…というか…。」

本心で言っているかを確かめるように、ガラスの瞳がこちらを凝視している。ライマーは急いで話題を変えた。

  「そ、それよりお前、何であんな写真を…そもそも誰が撮ったんだ!?」

『あんな写真』その言葉に、カレルの表情が硬くなった。

  「さあ?知らねー。」

  「まさか、知らないうちに撮られたのか?」

それはつまり、カレルの寝室に入り込んだ人物がいるということだ。ライマーは顔色を変えた。

  「全然気付かなかったのか?いくら寝てても、ここまでされたら普通目を覚ますだろう?」

だが、カレルは他人事のように言った。

  「さあな。」

  「さあなって…」

  「どーでもいい。」

カレルはそっけなく言って、フイと出て行ってしまった。



ライマーはため息をついた。

  (怒らせてしまった…。)

ライマーは自分を責めながら、ゴミ箱から写真立てを拾った。

一体、誰がこんな写真を?そして何故ここに置いた?

こんなことをしそうなのはオレストだが、オレストは今、絵画展示の為、アーリグリフにいる。それに、オレストだったら「見てくださいよ、これ〜!」とウキウキしながら見せに来ることだろう。 自分とカレルの関係を発展させようと画策する、『愛の応援団』なるものがあるらしいが、そいつらの仕業かもしれない。

とりあえず、カレルには部屋にちゃんと鍵を掛けるように注意しなければ。もっとも、機嫌が直るまでは言うことを聞いてくれないだろうが。

  「…。」

30の男とは到底思えない。もともとカレルの容姿はあまり性別を感じさせないが、こういう格好をすると、ますますそうなる。

この有り得ないほど似合うウサギの姿もさる事ながら、この無防備な寝顔が…

  『寧ろ…?』



――――可愛い



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■あとがき
写真を置いた犯人はエルヴィンです。