小説☆アラアル編---オレストは見た!

昼時の兵士たちでごった返した食堂。俺はトレーを持ってキョロキョロと見渡した。そして席に着こうとしているライマーさんの後姿を見つけ、急いでそちらに向かった。その隣にはやっぱりカレルさん。

  「あ、いたいた、カレルさん見っけ!」

  「来たな、ハイエナ小僧。」

カレルさんがにっと笑った。本来なら、自室で優雅に豪華ランチを取ってもいい立場にいるのに、この二人は一般の兵士たちと同じ場所で同じ食事をする。同じ釜の飯を食い、原点を忘れまいとする姿勢。なかなか出来る事じゃない。俺もそんな二人にならい、食事はいつもここ。そして、必ずカレルさんの向かいの席に座る。カレルさんは食が細い上に、肉類を殆ど食べない。だから、量が多かったり、料理の中に肉が入っていたりすると、こっちの皿に入れてくれるのだ。いつもそれを狙って寄って来るもんだから、『ハイエナ小僧』と言われるわけだ。

でも一番の目的は、カレルさんとライマーさんのラブラブっぷりを見るため…。



カレルさんが俺としゃべりながらシチューを口にした途端、顔を顰めた。

  「ん!?これ芋かと思ったら肉じゃねぇか。」

そう言って、口の中の肉を舌に乗せて俺に「やる。」と言ってきた。さすがにそれは、

  「いりませんよ!」

俺が断ると、肉を舌に乗せたまま、今度は隣のライマーさんの方を向いた。その時、ちょっと甘える表情になったのは気のせいじゃないと思う。だが、ライマーさんは冷たく突き放す。

  「そのくらいは食え。」

すると、カレルさんは肉を咥えて、ライマーさんの顔をガシッと両手で挟み込み、

  「んーvv」

と、ぐぐぐっと顔を近づけた。うぉーッ!待望のキスシーンが見れる!…かと思ったら、

  「やーめーろッ!」

ライマーさんが激しく抵抗した。ちっ、もうちょっとだったのに。口移し作戦が失敗したカレルさんは諦め、ブツブツと文句を言いながら肉を噛み始めた。

  「肉なんて、食い慣れてねーから後で胸がやけんだよなー。まぁ、毎日肉食って育った坊ちゃんにはわかんねー苦しみだ。そうだ、今日からこれを『貧乏病』と名づけよう。」

そんな思わず笑ってしまうような恨み言に、ライマーさんが溜息を付き、

  「ほら。」

と、スプーンをカレルさんの口元に差し出した。カレルさんは満足げに二ッと笑って、そこに咀嚼されてくったりとなってしまった肉をペロッと出した。

えっ!?…まっ、まさか、アニキ!?それを食う気ですか!?

たじろぐ俺を他所に、ライマーさんはそれを何の躊躇いも無く自分の口に運んで、何事も無かったように食事を続けた。

そんな、ある意味キス以上の光景に、俺はガーンと衝撃を受けた。

二人の愛がここまで深かったとはーッ!甘かったーッ!(何が?)

これこそっ!これこそ究極の愛だ…!

いくら好きな人のだって、口から出したものを食べるのは抵抗がある。だけど、ライマーさんは全く平気。そこにカレルさんに対する深い深い愛情を感じる。カレルさんだって、そんなライマーさんを独り占めしようとするくせに。それなのにどうして、この二人は恋人同士じゃないんだろう?ライマーさんはその手の話を一切拒否するし、カレルさんも俺の話に乗っているように見せかけて、いつも結局はうやむやにしてしまう。でも、何だかんだ言ったって、やっぱりこの二人は心の奥底では愛し合っているんだ。きっと同性ということで互いに遠慮しているのに違いない。

そんなことでくじけてはいけない!二人は身も心も一緒になるべきなんだ!ここは俺が応援してあげないと! そんな決意を新たに、目の前に座る二人を温かい目で見守っていると、カレルさんが気付いた。

  「オレスト、何だかえらく素敵な薄ら笑いだな。」

『素敵な薄ら笑い』って…。びみょー…。

カレルさんのこのセリフに、ライマーさんが笑った。ライマーさんがこんな風に屈託の無い笑顔を見せるのは、カレルさんといる時だけだ。これも愛…。

  「僕はいつだってお二人の味方ですからね。」

  「へぇ。」

カレルさんが一瞬俺の目を覗き込んだかと思うと、くるっとイタズラっぽい表情になった。イヤーな予感…。

  「ライマー、知ってるか?こいつ、俺らの事を応援してくれてるらしいぜ。」

  「応援?」

  「だーッ!!それは秘密ですッ!!」

俺は慌ててカレルさんのおしゃべりを止めた。俺が二人を恋人としてくっ付けようとしているなんてのがバレたら、ライマーさんが怒る。ライマーさんが怒ったらめっちゃ怖いんだって知ってるくせに、カレルさんってばワザとそんな事言うんだもんなあ…。慌てふためく俺を見て、カレルさんは楽しそうだ。すると、

  「成る程、俺に言えないような事か。まぁ、およその見当はつくが。」

とライマーさんがじろりと俺を睨んできた。ひぃ〜!ひょっとしてバレてる〜!?

  「そ、そそそ尊敬するお二人に、僕はどこまでも付いて行くっていう事です、ホント!ああ、そうだ、僕ちょっとお茶をついできますね。」

俺は冷や汗まみれになりながら、そそくさと席を立った。カレルさんがにやっと見送る。

この人は俺をからかって遊ぶのが好きなんだ。全く、勘弁して欲しいよ…。



ああ、でも…。いいもん見れたなぁvv

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