夕飯時のごった返した中。俺はいつものように食事の乗ったプレートを持って、背伸びをしながらライマーさんの姿を探した。長身のライマーさんを見つければ、その傍にきっとカレルさんがいるから。
(あ、いたいたv)
俺は人ごみをぬってテーブルに近寄ったが、そこにいたのはライマーさんだけ。
「あれ?今日はカレルさんはいないんですか?」
「まだ、仕事中だ。」
「なんだー…。」
ということは、今日は肉がもらえない。ちょっとがっかりしていると、ライマーさんがふと笑い、
「やろうか?」
と、スプーンで肉を拾って俺に差し出してきた。
「いえ、そんな!いいっすよ!」
俺は慌てて首を振った。俺がカレルさんから気軽に肉をもらえるのは、カレルさんが本当にいらないんだって事がわかっているからだ。
「気を遣っちゃいますから。喉に詰まります。」
すると、ライマーさんはそんな俺の気持ちをさっと汲んでくれた。引き際をわきまえる。これもいい男の条件だ。…後でメモっとこう。
「へぇ?それで?」
「それで僕ァ言ってやったわけですよ。『明日の俺を見てろよ!』ってね。」
「はは。次の日、ちゃんと成長してたか?」
「勿論です!目には見えないかもしれませんが、ちゃんと成長してるんですよ。」
ライマーさんはホントに聞き上手だ。くだらない話にもちゃんと耳を傾け、話の先を促すように相槌をうってくれる。そんなライマーさん相手に、俺が調子に乗ってしゃべっていると、そこへカレルさんがやってきた。
「いや〜参った。旦那のわがままに付き合ってたらキリがねぇ。」
「何かあったのか?」
ライマーさんが尋ねる。カレルさんはライマーさんの隣に座りながら、
「ウォルター隊長絡み。…何であんなに意固地になるかねぇ?」
と悔やみながら、ライマーさんの手からスプーンを取り上げた。そして、横からライマーさんの食べかけのシチューを食べ始めた。ライマーさんは黙って、カレルさんのするがままにしている。気を許しあった関係がそこにある。
(おおvv間接キスvv…っとと、喜んでる場合じゃなかった。)
「カレルさん、何か取ってきましょうか?シチューもまだ残ってると思いますよ。」
俺は後輩らしく気を利かせようとしたが、カレルさんはそれを押しとどめた。
「いや、これでいい。」
そうして、シチューの中からニンジンを選りくりたくって口に運びながら、にやっと笑った。
「知ってたか?こいつ、ニンジン嫌いなんだ。」
「え!?ライマーさんにも好き嫌いがあったんですか!?」
そう驚いたのは、ライマーさんがそういう気配を一度も感じさせたことがなかったからだ。食事を残したりは勿論、あれが好きだのこれが嫌いだの言っているのも聞いたことがない。出された物は、文句を言わず黙って食べる。…あ、但し、カレルさんが作った料理は例外。
「そ。甘い系は駄目。だから、カボチャも頂き♪」
カレルさんはそう言って最後にカボチャを頬ばると、スプーンをライマーさんに返し、水でカボチャを胃に流し込みながら立ち上がった。勿論その水はライマーさんの飲みかけv…なのはいいとして。
「え?もう食事終わりですか?」
ニンジンとカボチャしか食べてないのに。
「ああ。」
「もっとちゃんと食え。」
ライマーさんが心配する。だが、
「んー、また今度。」
カレルさんは後ろ手にひらひらと手を振って、足早に立ち去っていった。よっぽど忙しいんだな。
「何であんだけしか食べないのに、あんなに動けるんでしょうね?」
実はカレルさん、俺よりも遥かに運動神経が良いのだ。力は俺の方が強いんだけど、あの身軽さと素早さには適わない。バック転とか俺には無理…。少々落ち込みつつ、いつだったかカレルさんに言われた一言を思い出した。
「そう言えば僕、カレルさんに『お前は燃費が悪い。』って言われましたよ。」
これがどうやらライマーさんのツボに入ったらしい。くっくっくとライマーさんはしばらく笑って、
「確かに。倍食べたからといって倍働けるわけじゃないな。」
と頷いた。
「アイツ、朝はちゃんと食う。」
アイツとは、勿論カレルさんのこと。
「そういや、そうですね。」
「必要な栄養素を計算しているんだ。アイツは食事も頭でしてる。」
「確かに、カレルさんの場合、味は関係なさそうですもんね。こう言ったらなんだけど、味覚オンチっていうか…。」
「俺も最初はそう思っていたんだが、実は味を感じていないわけじゃないらしい。」
「つまり?」
「ちゃんとどういう味かはわかっている。だが、それが美味いのか不味いのか、それがどうもよくわかっていないようなんだ。」
要するに、認識の問題ってこと?相変わらず、不思議な人だなぁ。
「はあー…。でも、ライマーさんの料理はちゃんと美味しいって認識していますよね。」
「俺は別に手の混んだものを作ってるわけじゃない。ごく普通に作っているだけの、ごく普通の味だ。」
いやいや、兄貴の料理はお世辞抜きに美味いっすよと言いかけて、その時、俺にはピコーンと閃くものがあった。
「わかった!」
余りに大きな声だったから、ライマーさんはちょっと驚いた。俺は頭をかいて突然の大声を謝りながらも、興奮を抑え切れなかった。思わず声がでかくなってしまうほどの大はっけーん!
答えは『愛』だ!
ライマーさんの作ったものだからこそ、カレルさんは美味しいと感じるんだ!『お前が作ったのが一番美味い。』ってことは、つまりは
「作った人の想いがこもってるから、カレルさんには美味しいって感じるんですよ!」
「別に、そういうわけでも…。」
ライマーさんは反論しかけたが、あながち違うとも言えないらしく、そのまま黙り込んでしまった。
「ライマーさん、忙しいのにわざわざ時間割いて作ってあげてるでしょう?カレルさんって、そういうとこあるじゃないですか。金のかかった物よりも、心のこもったものを喜ぶっていうか。」
「まあ…。」
ライマーさんはそれ以上何も言えず、またも黙り込んでしまった。ひょっとして、照れてる!?
(もー!照れる事ないのになぁ♪)
ニヤニヤしたいのを俺は必死で我慢した。
ライマーさんの愛のこもった料理。カレルさんにとって、それは最高の味に違いない。