(それがァ〜男のォ〜道ィィ〜♪)
心の中で気持ちよくコブシを利かせて歌いながら廊下を歩く。本当は声に出して歌いたいけど、大人なイイ男はそんなことしないのっさ〜♪
『イイ男』を目指す…とはいっても、外見的にどうこうするのは鏡を見て早々に諦めた。もちろん、身だしなみはちゃんとするさ。イイ男の第一条件だもんな。けど、それよりも大事なのは中身だ。上っ面だけ繕ったってだめなんだよ。
ライマーさんを見てたらそれがすごいよくわかる。ぜんぜん格好つけてるわけじゃなく、あくまで自然体でさりげなくかっこいいんだよ!まあ、兄貴は外見もカッコイイけど…。顔は良いし、背ぇ高いし、男の俺から見ても惚れ惚れするような身体つきだし、頭もいいし、運動神経だって…ううっ、神様は不公平だ…。
だけど、そんないぢわるな神様もひとつだけ希望を与えてくれた。生まれ持った外見は変えられなくても、内面は努力しだいでいくらでも変えられるんだ。内側からイイ男のオーラを発する!これだッ!俺にはこれしかないッ!
…というわけで、俺はライマーさんが読んだ本を片っ端から読むことにしたんだ。その膨大な量と内容の難しさから、しょっちゅうくじけそうになるけど、ライマーさんはこれを読んだわけなんだから、それを励みにして目蓋につっかえ棒をしながら日々頑張っている。イイ男は一日にしてならず!だ。
…本当は恋愛ものが好きなんだけどね。
で、何日もかかってやっと読み終えた一冊を返そうとライマーさんの部屋を訪れると、ライマーさんはちょうどカレルさんの髪を切るところだった。ライマーさんに本の感想とお礼を言って、「ライマーさんに切ってもらえるなんて、いいですねー。」とカレルさんに言いながら、ずらっと分厚い本が並ぶ本棚から次に借りる本を選んでいると、
「お前も切ってやろうか?」
という願ってもない流れになった。
「え?いいんですか?」
「文句言わんなら。」
「是非お願いします!」
二人の時間を邪魔するようで申し訳なかったけど、でも二人のイチャイチャを見ていたかったし、いい加減髪も切りたかった。最近忙しくて、床屋がある街まで出ていく暇がなかったんだよ。ラッキーと思いながら、椅子に座ってカレルさんが終わるのを待つ。そして二人の様子を温かい目で見守った。
(ああ…いいなあ…vv)
カレルさんの髪はサラサラで綺麗だ。それをクシでとかすライマーさんの手付きが、とにかくすごく優しいんだ。なんていうか、大事なものをそっと愛しむような…見ててなんかすんごいドキドキする〜vv
「前髪は?」
「これでいい。」
ライマーさん的にはすっきりと切ってしまいたいらしいけど、そこだけはカレルさんが譲らない。だけど、いつもは諦めている(んだろう。だってカレルさんの前髪がすっきりしているところを見たことがないから。)ライマーさんも、今回は引き下がらなかった。そうして、もめにもめた末、
「顔は隠れるようにしてやるから。」
という条件でやっと合意した。さて、どんな感じになるやら。
シャキシャキと軽快なハサミの音が響く。
カレルさんが自慢するようにいつも言うことだけど、ライマーさんってほんと何でも出来る人なんだ。運動でも勉強でも、こういう器用さが求められる作業でも、満遍なく上手にこなしてしまう。初めてやることですら、人並み以下ってのを見たことが無い。
一方のカレルさんは、得手不得手が激しい。得意分野においては飛び抜けてすごいのに、不得意分野においては可哀想なくらいひどい。興味のないことには見向きもしないから、その落差はますます激しい。
ファッションも興味ないことの一つ。カレルさんは身なりとか身の回りのこととか、一切構わないんだなこれが。朝も、顔を洗って歯を磨いてっていう最低限のことはするけど、それ以上の、例えば髪をセットして、今日は何を着ようか悩んで…なんて事をしようという気は欠片もないようで。ライマーさんの根気強い教育によって、一応自分で寝癖は直してくるようになったけど、それもカレルさんなりにでしかないから、あんまり酷いときには結局ライマーさんが直してあげたりしてる。
そして、さらに信じられないことに、カレルさんが着ている服、実は全てライマーさんが選んだものなのだ!いくら親友だからって、有り得なーい!それなのに恋人じゃないなんて納得できなー…
いや…これはもう『お母さん』の域だよ…。
団長の右腕として、それなりの格好をしてもらわなければならない、っていうのがライマーさんの言い訳。それをカレルさんに求めるのは無理ってわけで、あらかじめコーディネートした服をライマーさんが一週間分用意してあげちゃってるわけだ。カレルさんはそれを右端から順にそれを着ていけばいいようになっているわけ。ほんとに、もう至れり尽せり!
そういえば、こんなことがあった。ライマーさんが、コーディネートから外れた半端な服をハンガーにかけて、それをうっかり右端に置いたまま忘れてしまったらしい。そしたら、次の日カレルさんはそれを着てきた。一目見ただけで変だってわかるくらいチグハグな服を、平気で。まあ、そんな人だから面倒見たくなっちゃうんだろうな。
でもね、ライマーさんvそれなら専属の服職人をつければいいことでしょ?どうして、それを『自分が』しなきゃって思うんです?しかも忙しい仕事の合間を縫うようにしてまで、ねぇ?ふふふふ〜vv
そもそも。カレルさんの服をライマーさんが選んでるって知ったとき、俺はすごく驚いた。だって、ライマーさん自身はいつも地味な格好だから。こんなにおしゃれのセンスがあるとは思わなかったんだ。髪型だってキチンと手入れされてるけどいつも一緒だし、服の色も黒とか茶色とかばっかだし。カレルさんに着せているような服をライマーさんが着れば、間違いなく超カッコイイ!はずなのに、本人は控えめな服しか着ないんだ。
そんなライマーさんがカレルさん用に選ぶ服は、一見ごく普通なんだけど、袖がほんのちょっと長めだったり、ウエストがちょっと細くつめられてたりして、何気におしゃれなんだ。そして、カレルさんがそれを着ると、何故かカッコ可愛イイ感じになってしまうのだ。
これ、ライマーさん、狙ってやってるよな?…っていうのは、考えすぎ?
いや、やっぱりそうだ。見てくれよ、このカレルさんの髪型。
もう、めっちゃかわいい…vv
散髪し終えたカレルさんは一段と若く、そしてキュートになってた。今まで頬を覆っていた髪は耳が見えるくらいに短く切られ、毛先は顎に沿わせて段々軽くなるようにカットされてた。髪の間からチラリと見える耳と、すっきりとした顎と、白い首筋がめっちゃ色っぽいvv不服そうに短くなった前髪で何とか顔を隠そうとしている、その仕草も可愛くみえるのは何故!?
やっぱりね。やっぱそうだと思ってましたよ、兄貴!カレルさんのこと、絶対かわいいと思ってるでしょ!
うわ〜、たっぷりとした大きめの服とか着せてみたいな〜…vv今度、カレルさんの箪笥にこっそり混ぜてみようかな…。ふっふっふ…いいかも〜♪
カレルさんの直球な萌え姿。それを見たときのライマーさんの顔。どちらも是非見てみたい。
次の日の朝の会議室。随分早目に来たのに、それよりも前にライマーさんが来ていた。俺は挨拶しながらライマーさんの向かいの席を陣取った。勿論、ライマーさんの顔が良く見れるように。しばらく世間話をしていると、カーティスさんとユークがほぼ同時にやってきた。
「お早うございます。あれ、オレスト、今日は早いな!」
カーティスさんは俺が早いのを珍しがり、ユークにいたっては、俺の顔を見た途端、慌てて時計を見、
「えっ!?時間…は大丈夫だよな?あー、びっくりした。俺が遅いのかと思った。ったく、紛らわしいことすんなよなー。」
と文句まで言った。そこまで驚く必要あるか!?と反論したかったけど、何で今日は早く来たのかを掘り下げられると、ライマーさんに何かあると勘付かれてしまうので、俺は急いで話題を変えた。
「そんなことより先に、言うべきことがあるだろ?」
「ああ、『おはよう』。」
「違う!ほら、今朝の俺、一味違うだろ?」
「??」
大げさにアピールしてもそれでも一向に気付こうとしないユークに、カーティスさんが笑って、
「髪切ったんだろ?いい感じじゃないか。」
と代わりに俺が言って欲しかった事を言ってくれた。カーティスさんは優しいなあ。
「でしょ?ライマーさんが切ってくれたんですよ。」
するとユークが「なる程!」という口調で言った。
「あー、なんだ、そのせいか。いつもより顔が腫れて見えるのは。」
「むかッ!」
ちゃんと腹が立ったと教えてやらないと、ユークは気づかない。でも、全然悪気はなくて、案外素直に謝るんだ。そして、
「それより、今日は何かあったのか?いつもは最後まで飯をお代わりしてるくせに。」
と、ろくに人の事を見てないくせに、どうでもいいことはよく見てて、そして今その事に触れて欲しくないって時に、触れてくるんだよな、こいつは…。せっかく、ライマーさんのカットの腕前について話を展開しようとしてたのに、何で元に戻すんだよ…。
「昨日食いすぎて、今朝は食欲なかったんだよ。」
…これで誤魔化せたかな?すると俺の嘘にカーティスさんがちょっと驚いた。
「へえ?お前でも食欲ないなんてこともあるんだ?」
「そう言えば。こいつ失恋した時、どんぶり飯一杯しか…」
ユークがカーティスさんに余計なことをしゃべろうとしたところへ、真打登場!
「はよっす。」
軽快なカレルさんの声にライマーさんは目を上げ、そして固まった。
いよっしゃーッ!いい反応ゲットォーーッ!!
ユークとカーティスさんもカレルさんの格好に気付いて、自然に黙り込んだ。
俺もライマーさんからカレルさんへ視線を移した。
うーわっ、想像以上ッ!
俺にはタイト過ぎて着れないまま箪笥の肥やしになっていたシャツは、カレルさんにはゆったりサイズで、丁度いい具合に肩からずり落ちそうになってくれてて、華奢な体がすっごく際立ってた。首筋から肩のラインが色っぽ過ぎ!手先が半分しか出てないのもツボ!そして、寝癖でぴょこんと跳ねた毛束が無防備な感じですんごいカワイイvv
きゅっと抱きしめたら、胸がふんわりあたっちゃったりなんかして〜vv…ってそりゃないか。あー残念!ほんとに残念!
「はーあ、朝なんかこなけりゃいいのにな。」
カレルさんはぼやきながらいつものように椅子の上に胡坐をかいて座り、さてと目を上げて、皆が注目していることに気付いた。
「…何だ?」
「カレル隊長…。」
こ、こらこら、ユーク、頼むから余計な事は言ってくれるなよ!?
「今日なんか…服装がいつもと違いますね。」
「…そうか?」
その格好で小首をかしげる姿、超萌え〜vv猫耳つけたら完璧ッ!
「お前、その服…自分で選んだのか?」
あはっvライマーさん、実は相当動揺してるでしょ?
「これ?ちゃんと右から取ったぜ?」
「…俺は知らん。」
カレルさんはまじまじとライマーさんを見た。それからまるで逃げるようにライマーさんの視線が俺の方に向くのと、
「オレスト。」
と、カレルさんが俺の名を呼んだのがほぼ同時だった。
ぎくぅ!
「どういう事だ?」
な、ななな、何でわかるんだろう?これは返答次第によっては恐ろしいことに…
「なっ、なんで、僕に聞くんですか?」
「お前の仕業だろ?」
はなから決め付けられてる。これはもうシラを切ると逆効果。
「その、カレルさん、髪切ってイメチェンしたでしょう?で、そういう服が似合うんじゃないかと思って…。」
「だが、お前、これは…。」
ライマーさんは言いかけたが、その先は言えなかったのか、ふつりと口をつぐんだ。シーンと沈黙が降りた。
「『これは…』、何だ?」
カレルさんが先を促す。だが、ライマーさんは目をそらし、「いや…。」と言葉を濁した。
「変なのか?」
「変じゃ…ないが…。」
「じゃあ、なんだ!?はっきり言え!」
煮え切らない反応に、カレルさんの機嫌が悪くなってきた。い、いかん!フォローしなきゃ!
「変じゃないです!めちゃくちゃ似合ってますよ!なあ、ユーク?」
絶対お世辞を言わないユークの言葉ならカレルさんも信じるはず。ここは頼むぞ。頼むから、余計なことは言〜う〜な〜よ〜〜
「うん…すごい似合う…vv」
〜よーし!よくやった!だけど、カレルさんはそう簡単には納得しない。いぶかしむ様に一同を見渡した。
「カーティス?」
カーティスさんはいきなり指名されて焦り、
「に…似合ってますよ!すごく!」
と言ったきり目を伏せた。これ以上自分に聞かないでくれという態度全開で。ま、まあ、カーティスさんは仕方ない。正直なところがいいとこなんだから。
「なーんか、引っ掛かるな…。けどまあ、変じゃねぇならいいか。」
カレルさんは服のことなんて、本当にどうでもいいんだ。さっさと資料に目を通し始めた。ライマーさんは何か言いたそうだったけど、それ以上は何も言えず、俺を睨みつけてきた。
何で睨むんですかー?別に悪いことしてないでしょー?似合ってるのは事実だしー!
するとそこへ。ジノさんとエルヴィンさんが入ってきた。そしてカレルさんを見るや、皆が言えなかったことを、あっさりと言ってくれてしまった。
「おっ!今日はまたえらく男好きのする格好だな!」
「へぇ…シューゲル氏って、こういうのが趣味なんだ……意外。」
コレがとどめとなり、俺はその日一日、真っ赤なリボンをつけて過ごさなきゃならなくなった。
はいはい、カワイイでしょ?どーぞ、笑って下さいよ。
はあ〜vvでもカレルさん、可愛かったぁ〜vv
そして、そう感じているのは俺だけじゃないんだ。