小説☆カレル編短編集---男の中の男

  「パンパカパーン!発表します!漆黒の『抱かれたい男No.1』はー…」

オルストはそこで一旦言葉を切り、皆の注意がぐっと集まったところで、

  「ライマー・シューゲル兄貴ーッ!」

と高らかに発表した。うぉーっという野太い歓声とともに、派手に祝杯が交わされた。

  「さっすが兄貴!かっこいいー!」

  「しかし、当のライマーさん、全く嬉しそうじゃありません。なぜなら、この投票は漆黒内で行われたからです。つまり、投票したのは全員男だからでーす!」

  「ひゅ〜ひゅ〜vこの男殺し〜vv」

ライマーは周囲に囃し立てられ、酒を飲みながら迷惑そうに顔を顰めた。

漆黒の美形No.1は間違いなくアルベルだという話から、いやしかし、アルベルの美しさは中性的なもので、『男くささ』という点では少々物足りない。それでは、漆黒の男の中の男は誰かを投票で決めようという話が、何故かこうなった。そして酒の席で開票が行われた結果、ライマーが見事一位に選ばれたのだ。

  「俺、マジで、ライマーさんになら抱かれてもいいっす!」

一人が杯を掲げてそう叫ぶと、

  「俺も!」

  「俺も俺も!」

と皆がハイハイハイッと次々に手を上げた。同性愛など言語道断という、真面目で堅物なライマーが一位に選ばれた事を、みんな面白がっているのだ。ライマーは勘弁してくれと頭を振った。そこへ、

  「よっ!盛り上がってるな。結果はどうなった?」

ようやく仕事を終えたカレルがやってきて、投票結果を尋ねた。

  「ライマーさんがブッチギリですよ!」

  「お、やっぱりな♪ライマー、おめでとう!」

カレルは嬉しそうにライマーの肩を叩き、その隣に座った。ライマーの隣はカレルの席、またカレルの隣はライマーの席と決まっている。そのため、部下や同僚達はいつもそこを空けておくのだ。

  「カレルさんは誰に投票しました?」

オルストがカレルに酒をつぎながら尋ねると、

  「俺?ライマー。」

とカレルはあっさり答え、酒を飲みかけてたライマーがむせた。まさか親友からまでそういう目で見られるとは思ってなかったらしい。

  「やっぱりーぃ!?」

  「つつつまり、ライマーさんにアレコレされたいってことっすよね?」

みんなが興奮しているのを見て、カレルはライマーににやりと笑い、

  「ああそうだな。女の悦びってヤツを是非教えてもらいてぇな。」

と、更に煽った。ライマーの堅物ぶりをからかっているのだ。すると、カレルのその一言で場が一気に盛り上がった。

  「お、女の悦びーッ!?」

  「うっひょーッ!」

  「俺も知りてぇーッ!」

  「いい加減にしろって!お前もへらっとそういう事いうなよ!」

ライマーがこの手の話題を嫌うのを知りながら、そういうことを平然と言うカレルの頭を、ライマーはゴンと殴った。

  「いてッ。」

しかし、例によってカレルにはちっとも効いてない。へらへらしながら「照れるな照れるな♪」とライマーをからかうように覗き込んだ。ライマーはそれをデコピンで追い払った。

  「ところでライマーさんは誰に入れたんですか?」

  「白紙に決まってるだろう。俺はお前らの悪ノリにはついていけん。」

そんな、ライマーらしい返答に部下達はがっかりした。

  「けーっ、つまんねー!ひょっとしたら両思いカップルが出来たかもしんねーのに。」

  「いや、それじゃ『抱かれたい同士』になるから駄目だろ。」

  「あっ、そうか。ってことはライマーさんが、『抱きたい相手』を選べばいいわけだ。」

途端に、きらきらした視線がライマーに集まった。

  「ねぇ、誰にします?」

  「選り取りみどりですぜ、旦那!」

皆が一斉に、しきりにウィンクしたり、頬を染めてもじもじしてみたり、指を咥えてちらりちらりと流し目送ったりし始め、ライマーはぞわっと鳥肌を立てた。

  「やめろッ!そんな目で俺を見るなーッ!」

  「あーっはっはっは!お前ら最高ーッ!かーっはっはっは!くっ、くるしー!」

  「お前は笑いすぎだ!」

ライマーは笑い転げるカレルにゲンコツで八つ当たりし、今夜は自棄酒だと、一気に酒をかっくらった。

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■あとがき■
如何なる時も遊び心を忘れない漆黒の連中。お馬鹿な悪ノリやジョークが大好きvだけどそれが中々出来ない人間もいるわけで。特に、アルベルとこのライマー。アルベルには笑いの素質はあって、毒舌の中にさり気なく笑いの要素を込めてたりするんだけど、自分を曝け出すまではできない。それに対してライマーは根っからの真面目人間。しかし、周囲の連中のおふざけに揉まれるうち、随分馴染んで来たようで、最近は冗談くらいは言えるようになりました。
本当はライマーは漆黒ではなく、礼節仁義を重んじる風雷に行くべきだった人です。本人もそのつもりだったのですが、ある理由で自らの意思で漆黒に来ました。その辺の話は「ライマー・シューゲル」にてv