小説☆カレル編---ファーストキス(オレスト視点)

  「うっひょーっ!『あなたとのことが忘れられません…』だってさ!こんなこと言われてみてぇー!」

敢えて前置きを省いてその手紙をわざわざ声に出して読んだのは、カレルさんの嫉妬心を煽るのが目的。カレルさんはライマーさんの隣で興味なさそうに指の皮を弄っている。ふふふ、効いてる効いてるv

  「勝手に読むな!」

ライマーさんはその手紙を俺の手からひったくると、くしゃくしゃと丸めて、そのままごみの中に捨ててしまった。

今日はバレンタイン。ライマーさん宛てに届いたたくさんのチョコレートを肴に酒を飲む日。ライマーさんは甘いものが苦手なんで、みんなで山分けするんだ。うーわっ、男からも来てる!

さっきの手紙は、その内の一つについていたのだ。まだ未開封だったのに、ライマーさんは中味どころか、差出人の名前すら見ずに捨ててしまった。

本当はその文面には『一度だけという約束だったけど』という前置きが付いていた。それで、ライマーさんの女性との付き合い方を知った。俺の知る限り、ライマーさんは今まで特定の女性と付き合ったことはないはず。それは間違いない。俺はそういう事に関して、すんごい鼻が利くんだ。俺に内緒で付き合おうったって無理。でも、とっかえひっかえなんて、そんないい加減な真似はしない人だ。あの手紙にも、『あなたの優しさに付け込んでしまって』的なことが書かれてたから、きっと情に訴えられるかなんかしたんだろう。

  「ライマーさんって、初体験はいつなんですか?」

俺が尋ねると、ライマーさんは不快そうに顔を顰めた。

  「そういう話はしたくない。」

そう言って酒を飲もうとしたが、杯が空だった。酒瓶に手を伸ばしてきたのを、俺が代りに急いで酒瓶をとりながら、チラリとカレルさんを見た。カレルさんが隣にいて、ライマーさんの杯が空になる事なんてないのに。カレルさんはライマーさんが捨てた手紙を広げて読んでいた。髪に隠れて表情は見えないが、きっと…vv俺は酒を注ぎながら、今度は軽めの質問をしてみた。

  「じゃ、ファーストキスは?」

その瞬間、ライマーさんの手がギクリと震えた。その拍子に、瓶の注ぎ口が杯からずれ、酒がこぼれた。

  「うわっ!すみません!」

  「いや…すまん。…今のは俺が…」

うん、今のは俺のせいじゃない。ライマーさん、ひょっとしてちょっと焦ってる?って、あれ?

  「…ライマーさん、顔、赤くなってません?」

  「別に…ちょっと酔いが回っただけだ。」

嘘だ。いつもどんなに飲んだってまるで素面なのに。カレルさんが顔を上げてライマーさんの方を見ると、ライマーさんは布巾を取るフリしてさりげなく顔を背けた。でも、その顔は今やはっきりわかるくらいに赤くなっていた。え?え?何?どういうこと?セックスの話ではあの反応だったのに、何でキスではこの反応??っつーか、ライマーさんがこんなに動揺してるの初めて見た。

  「耳まで赤いぞ。」

カレルさんがにんまりと笑いながら、ライマーさんの耳を指先でちょいちょいと触った。

  「うるさい。」

と、ライマーさんはそれを振り払いながら、カレルさんを見ようともしない。まさか!?

  「まさか!!?」

信じられない思いでそう叫ぶと、

  「それ以上言うなッ!!」

ライマーさんがこれ以上ないくらい鋭い目つきと口調で俺を口止めした。その余りの剣幕に、そこここで盛り上がっていた場がシンと静まりかえった。皆、何事かとこちらに注目している。そこへカレルさんがへらっと口を出した。

  「強奪されたんだよな?」

  「ッ!!」

すると、ライマーさんは無言で立ち上がって出て行ってしまった。

  「ど、ど、ど、どういうことなんすか?」

動揺する俺を余所に、カレルさんは手紙をくしゃくしゃに丸めながら、楽しげに笑った。

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■あとがき
これはシーハーツとの戦争が激しくなる前くらいの時期。オレストはこれからこの二人に関して、いろんな事に気付いていくことになるんですが、その前の段階の話。