小説☆カレル編---ファーストキス(カレル視点)

もう忘れてると思ってた。

けど、ライマーは忘れてなかった。

あんなに動揺するほど覚えてたんだ。





あの時、ライマーのファーストキスを奪おうと思ったのは、俺がライマーにとっての一番になりたかったからだ。その時、頭にあったのはその事だけ。別に深く考えてたわけじゃない。

けど、こうして今考えると、俺はこの時の自分の行動を褒めてやりたいと思う。これは俺の人生の中で最大の功績だ。

なんであんなに激しいキスをしたのかというと、どうせやるなら徹底的にやってやれ!と思ったから。あんなキス、俺も初めてで、大人がやってんのを見たことがあるだけだったから、ひょっとしたらやり方が間違ってたかもしれねぇんだけどな。まぁ元々正解なんてねぇだろ。

けどこれも、ほんとにそうして良かったと思う。

何故なら、恐らくはそのお陰でライマーの記憶に残ったのだろうから。きっとライマーがどこかの誰かとキスしたときも、俺を思い出したことだろう。

そう思ったら沈んでた気分が少し晴れた。





あのキスの後、ライマーは露骨に俺を避け、俺は許してもらうのに相当苦労した。でも絶対に許してもらうと決めてた。あの手この手で許しを乞うて、やっと口をきいてくれたときの会話は、

  「お前…何であんなことしたんだ?」

  「んー…なんとなく。」

だったと思う。その時のライマーの重苦しい雰囲気が嫌で、その口から否定的な言葉が出る前に、強引に話をかえたのを覚えてる。

キスの話をするとライマーが動揺するのが嬉しくて、何かにつけて持ち出してたが、とうとう「思い出させるな!」と言われてしまって、それからは話題にすることはしなかった。





ライマーは俺の知らぬ間に、いつの間にか女を経験していた。その事を察知したとき、俺は雷に打たれたようなショックを受けた。

ついにライマーをとられる時が来たと思った。ライマーの性格なら、きっと真面目に交際した上でそうなったはずで、いつ結婚すると言い出すのか戦々恐々としていた。けどいつまでたってもそうならず、どんなに探ってもライマーの周囲にそれらしい女の気配を感じないことが逆に変だと思った。あの真面目なライマーが遊びでそういう事をするはずがねぇから。

けど、あの手紙からも、ライマーは付き合う気もねぇのにその場限りの関係を持ったことがうかがえる。

理由はわからない。…単にライマーの事をわかってねぇだけかも。アイツ、そういう話を絶対にしねぇから。ひょっとしたらそういうことに関しては積極的なのかも…けど、そういう話をしたがねぇ奴が実は積極的だったりするもんかねぇ…?

よくわからねぇけど、とにかくそういう関係があったことは確かな事実で、そんな数々の経験の中で、俺とのキスなんかもう忘れてると思ってた。

けど、ライマーは忘れてなかったんだな。

ライマーは13年前と同じように動揺してた。

それがたまらなく嬉しい。

…これは恋愛感情なのか?いや、恋愛小説とか他のやつらの恋話とかからすると違う気がする。個人差なのかもしれねぇが。





俺はライマーが俺以外の誰かと親しくするのが嫌だ。中でも、男女の関係は絶対に俺が入り込めない領域で、それが嫌で嫌で仕方がなかった。

けど、じゃあライマーとそういう関係になりたいかと言われれば、それはよくわからない、ってのが正直なところだ。

ライマーになら何をされたっていいと思う。けど、セックスでもそうなのか、自信がない。

俺はなぜか知らねぇが性的な事が全然ダメだ。自慰すら酷い罪悪感があってほとんどしねぇし、そもそも勃起しねぇし、性的な興奮がどんなものかも知らない。皆なんでそういう話が好きで、あんなに楽しそうにすんのか、周囲と話を上手く合わせながらもまったく理解できない。この歳で未だ童貞なんて馬鹿にされるだろうけど、こればかりはどうしてもダメだ。

人の話を聞くくらいならいいが、それが自分に向けられた途端、強い拒絶反応がでる。軽いセクハラも受けつけねぇくらいに。女に誘われたこともあるが(男にもある)、そういう目で見られたと感じた瞬間、吐き気がするほどの嫌悪感を抱いた。っていうか、男に押し倒されそうになったときには実際吐いた。

別に同性愛に偏見があるわけじゃねぇのに、頭で考える事と肌で感じる事は違うっていうか、吐いた後もしばらく気持ち悪くてしょうがなかった。だからホモを気持ち悪いっていう気持ちはよくわかる。

けどこれは男に限ったわけじゃなくて、女に対してもそうだから、俺は異性愛者でも同性愛者でもないわけで、唯一大丈夫なのがライマーであって、そうするとライマー愛者って事になるか。

けど、実際はライマーに対しても、そういう性的な欲求を抱いた事はない。あの時だって別に、キス自体をしたいと思ったわけじゃない。ただ奪いたかっただけだ。

もし、ライマーが俺に対して…まぁ絶対にねぇだろうが…そういう欲求を抱いたとして、嫌悪感を抱かずにいられるか。頭じゃ大丈夫だと思ってても、実際にそうなったとしたら…

ッ!…またあの感覚…!

この事について深く考えようとすると、いつも急に耳鳴りがして息が苦しくなる。

…マジでヤバイ……別の事を考えよう……

目次へ戻る

■あとがき
カレルのキスは「子どものちゅー」の延長。カレルはこの時まだ恋愛感情を知りません。カレルへの性的欲求を自覚したライマーに対して、子どもの頃の体験から性を見失っているカレル。この状態で親友として13年を過ごす二人。