小説☆カレル編---アルベル精鋭部隊(1)

カレルは落ちこぼれ部隊に戻ると、仲間を集め、

  「事後承諾で悪いんだが、俺はアルベル団長に付く事にした。」

と宣言した。これを聞いた仲間達は仰天した。カレルと違って、アルベルに対していい印象はもっていなかったのだ。

  「そりゃまた、何で?」

  「確かに強いのは強いが、まだひよっこじゃねぇか。」

その他にも、アルベルに対する非難が相次いだが、カレルの考えは変わらなかった。

  「今はな。だが数年後は違う。まぁ確かに、まだ青い部分がある感じではあるが、大人の世界に入ってきたばっかなんだから、それは当然の事だ。足りない部分は俺らでフォローしていきゃいい。」

  「フォローする、っつたってねぇ…。」

皆はアルベルの尊大な態度を思い浮かべた。素直にそれを受け、感謝するような可愛らしさなど微塵も無い。

  「口は悪ぃし、態度はでかい。弱い奴らは『クソ虫』扱い。前団長の方がお行儀良く見えちまうぜ。」

だが、カレルはそれを全く気にしてない様子だ。

  「言葉に毒が入ってるからわかりにくいが、言ってることは実に筋が通ってる。漆黒が『クソ虫』だってのも本当の事だ。」

  「そう言われればそうかもしれないですけど…正直俺は不安ですね。団長としてやっていけるのかって。」

古株を差し置いて若手の隊員が口を出したが、それを咎める者などここにはいない。

  「俺もそう思う。あの傲慢さはいずれ身を滅ぼす。」

  「ここはしばらく様子を見といた方がいいんじゃねぇですか?」

  「いーや。これから漆黒はアルベル派とシェルビー派に真っ二つに分裂する。今が決断の時だ。」

そう言ってカレルはアルベルと交わした会話の内容を話してやった。

  「確かにその考え方は面白いな。」

  「だが、大半はシェルビー派だろうなぁ。」

それはカレルも認めた。

  「まーな。長いモノに巻かれといた方が安心だからな。だが、それも最初の内だけだろ。」

  「どうしてそう思うんで?大体、どうしてカレルさんはそんなにあの新団長をかってるんです?」

疑問はそのままにせず、必ずその場で解決すること。後で、実はわかっていなかった、聞いてなかったは通用しない。落ちこぼれ部隊での鉄則だ。このため、話し合いは皆いつも真剣だった。

カレルは皆の疑問に丁寧に答えた。

  「グラオ様の息子で後ろ盾も申し分ないというのがまず一点。それから、漆黒で間違いなく最強だということが一点。そしてあの美貌。それに頭もいいし度量もある。それ以上に、実際に話してみて、俺はあの若団長が気に入った。」

  「何で顔が関係あるんですか?」

ジャガイモ顔の男がそう質問すると、周りから『ひがむな、ひがむな。』と頭をぐりぐりされた。

  「それだけで人を惹き付けるだろ。」

だが、やはり空気はパッとしない。18歳というのが何とも心もとないのだろう。

  「まあ、お前の人を見る目は確かだけどな。俺としてはリーダーはお前がいい。」

カレルの親友であるライマーがそう言うと、その意見に皆が一斉に頷いたが、カレルは即座にダメだと首を振った。

  「俺にはあのカリスマ性がない。落ちこぼれ部隊長なんかに、誰が付いてくる?」

カレルの冷静な自己分析に、盛り上がりかけた空気が再び鎮まった。

  「目先の事に囚われずに、もっと広い範囲で考えろよ。漆黒内部では、確かにシェルビー派が大勢を占めてる。だがあの若団長のバックにはウォルター殿だけでなく、国王まで付いてんだ。多少頭のあるやつはその辺の事を考えるだろう。」

カレルは仲間達の真剣な顔を見渡し、口調を軽くした。

  「それに、規格外って点では俺らのリーダーとしてぴったりだとは思わねぇか?」

  「…そりゃそうだな。あれ程のはみ出し者はそうはいねぇ。」

このことに関してはみんなの意見が一致した。

  「まあ、皆に無断で悪ぃとは思ったけど、俺は既にそう決めたし、できれば皆もそうして欲しいんだが、強制するつもりはねぇよ。どうする?」

  「どーするっつったって、俺達はお前に付いていくって決めてんだ。」

その言葉に一同が頷き、カレルはちょっと照れくさそうに笑った。

  「んじゃぁ、『落ちこぼれ部隊』は今日から『アルベル精鋭部隊』に改名だ。まだ納得いってねえ奴も、これから俺が証明してみせっから、長い目で見てくれよ。頼む。」

カレルがそこまで言うのなら、と皆は納得した。合議制を重んじるカレルが、こんな風に独断で強引に物事を進めるのは珍しい事なのだ。

だが、カレルはそこでふと溜息を付いた。

  「まぁ、付いていくと決めたっつったって、それはこっちの事情だ。まずは団長に俺達を認めてもらうところから始めるわけだが…これはかなり骨が折れそうだな。」

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