小説☆アラアル編---新体制〜後編(2)

あれからアランはカレルを避けた。

あの何とも形容しがたい、あの感覚を再び味わうのが恐ろしかった。 一切何もさせず、こちらから声を掛けることもない。

カレルは毎日ただ椅子に座っている。そして時間になったら静かに退出していく。

そうなると、いよいよカレルに対して、あからさまに疑いの視線を向ける者が出てきた。色んな噂も立ち始める。アルベルからの信頼を失い、干されているらしいとか、再教育に見せかけて、アルベルがアランを監視させているのではないか、又は、アルベルの懐刀である自分を差し置いて、部下のライマー・シューゲルが漆黒の副団長になったことで、漆黒に内部分裂が起こっているのではないか…などなど。いちいち探りを入れられるのが面倒なので、最近は午前の勤めが終わると、カレルは極力自室に引きこもるようにしている。

アーリグリフ城のその小さな一室は、漆黒団長の腹心に与えられるものとしてはあまりに粗末すぎるものであったが、カレルはそれが丁度よかった。暖炉に火をつけると、カバンからアラン・ウォールレイド解体新書を取り出した。少しずつだが、だいぶページが増えてきた。今日はそれらをまとめ、ゆっくり分析しようと机に向かった。

寄せ集めの情報を付き合わせ、関連を見つけて繋げてみたり、分けてみたり。そうする間に意外な発見があって、そこが最大の面白さだ。

アランの周りに人が集まらない原因は、アランが人を信用しないことにある。毎日アランを観察し、さまざまな証言を集めながら得た情報を分析し、その問題を掘り下げていく内、やがてあることに気付いた。

  (…いや、まさか。)

頭を白紙に戻してもう一度見直してみる。だが、やはり同じ結果に辿り着く。 カレルはペンを置いて、じっと考え込んだ。

以前から気付いていたことだが、自分とアランには共通点が多い。生まれも育ちもまるで違うはずなのに、妙に通ずる点が多いのだ。

問題は、その共通項目が、今カレルが抱えている問題に重なっているということだ。

それはつまり、アランも同じ問題を抱えている可能性がある、ということ。勿論、断定できる段階ではないが…。

何故かカレルにはアランの気持ちが痛いほどわかった。元々カレルは人の気持ちには敏感な方だが、それが傍観者的な感覚なのに対し、アランに関してはいつも完全に同化してしまった。アランの心の痛みを実際に感じてしまうほどに。それがずっと不思議でならなかったのだが、もしその仮定が正しいとすると、容易に説明が付く。

アランは苦しんでいるのだ。今のカレルと同じように。

この苦しみを何とか乗り越えたいと足掻いているときに、このタイミングでこんな偶然が起こる不思議。カレルは神は信じない。だが、人の運命を司る存在は確かにあるような気がしてならなかった。

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