アランはカレルの差し出した絵を見て、深い深い溜息を付いた。最早、怒る気力も失せたといった様子だ。
練習すればするほど上達するはずなのに、その法則を無視して、絵はますますひどくなっていく。一体どういう現象だろう。最初はふざけているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。それだけに事態は深刻だった。
「どうやら、二枚でも足りないようですね。」
やっとの思いで二枚描いたのにそう言われたカレルは、「どうか、もうお許しください。」と全面降伏した。
「何故、こんな仕打ちを受けなければならないのですか?」
そのあまりに悲愴感を漂わせた言い方に、アランは呆れた。
「仕打ちという程の事ですか?」
カレルは堪りかねて言った。
「俺は正直、絵にはちっとも興味ないんですよ。全然面白くねーし。正直、苦痛です!」
「言葉遣いには気をつけろと言ったはずです!」
「…映写機がない時代ならともかく、今はそういう便利なものがあるのですから、それを使えばいいではありませんか。わざわざ画材を浪費する意味がわかりません。」
その言葉に、アランは唖然とし、絶望の溜息を付いた。
「成る程…あなたは芸術のなんたるかをまるでわかっていないようですね。」
これは重症だ。ところが、当の本人はけろりとしたものだ。
「はい、全く。皆、アルベル団長の絵を誉めていましたが、自分には落書きにしか見えませんでした。」
「えっ!?」
アランは驚いた。
「アルベル様も絵をお描きになったのですか?」
カレルは部屋に飾ってあった絵をさした。
「それです。…分かって飾ってらしたのではなかったでは…ん?…飾ってらしたのではなかったのでは……飾って・らした・のではなかった・のですか??」
敬語がこんがらがって訳がわからなくなっているカレルを余所に、アランはガタッと椅子を鳴らして立ち上がった。
「他の…他の絵はどうしました?」
確か、他に9枚あったはず。
「完売しました。隊長がこの絵に破格の高値を付けた事で、他の絵の価値もつりあがったそうです。そうなった途端、皆が目の色変えて欲しがったのだとか。要するに、欲しいのは絵そのものというよりも、ステイタスでしょう?そういうところも訳がわかりません。紙と絵の具代で、せいぜい100フォルでしょう、こんなの……このようなもの。」
アルベルの絵。そんな貴重な宝を目にしながらみすみす逃してしまっていたという事実に、アランはただ呆然とするしかなかった。