アランはアルベルと連れ立って歩きながら、後ろのクレアにチラリと視線を走らせた。
「何を話しておられたのですか?」
それに対してアルベルは、
「大した事じゃねぇ。」
と軽く流した。いちいち話してやる程の内容ではない。アルベルとしてはその程度の事だったのだが、アランはそうは捉えていなかった。このアルベルが、大した事もないのに女と話をしたりするはずがない、と。
「『大した事ではない事』とは何です?」
感情を抑えた口調での追求に、アルベルは思わず振り返った。普段なら、アルベルが話を流せばアランもそれ以上踏み込もうとしないのだ。だが、アランの目に不安の色が浮かんでいるのをみつけて、アルベルは小さく溜息を付き、簡単に話してやった。
「あの女の上っ面の良さが気に入らねぇって事だ。」
だが、アランは納得できなかった。遠くからアルベルがクレアと話をしているのを見つけたとき、クレアは笑っていた。そんなことを言われて笑ったりするだろうか。アルベルが嘘を言うことはないのだが、ただ言わない事実が多いのだ。
普段なら、アルベルの言外を察することができる。だがこの時は感情が邪魔をしてしまった。
アランはアルベルがいちいち事細かに聞かれるのを嫌っていると知りつつ、それでも聞かずにはおれなかった。
「とても楽しそうにお話されているように見えましたが。」
「知らん。あの女が勝手に笑っただけだ。」
「何故?」
「俺が知るかっ。あの女に聞け。」
流石にアルベルが少し不機嫌になったので、アランもそれ以上は踏み込めず、仕方なく引き下がった。
(クレア・ラーズバード、か。)
この時、アランは初めてクレアを意識した。クレアが心の奥底に隠しつつ、密かにそうなったらいいと望んでいるのとは真逆の意味で。