小説☆アラアル編---側近(1)

アランはクロード・セルヴェストールを上から下まで眺めた。淡い金髪に碧眼で、背はそれほど高くはなく、体つきも普通だ。服のセンスも普通。ただ、笑みを湛えた彼の表情はふんわりと優しく品がある。第一印象は悪くない。

クロードは突然アランに呼び出されて戸惑っているようだった。しかも、

  「今日からあなたは団長室勤務です。」

という急展開だ。

  「何故、私が?」

と聞きたくなるのは当然だろう。だが、アランにもその理由はわからないのだ。漆黒の人間であるカレルが疾風の内政に関わったことは機密事項である以上、事情説明も出来ない。そこで、

  「知る必要はありません。」

と流した。すると、クロードは、

  「そうですか。」

とすんなり事態を受け入れた。

  「机はそこです。」

と、アランはついこの間までカレルが座っていた机をさした。

  「普段はそこで待機し、私の傍に従うこと。それから疾風の人員再編を行います。組織の骨格はこのように。人選をあなたに任せます。」

  「わかりました。」

  「では早速取り掛かりなさい。」

  「はい。」

アランが差し出した組織図を受け取ると、クロードは一礼し、異動の準備のために部屋を出て行った。

  「…。」

カレルの推薦した人間であるから、一筋縄ではいかないだろうと構えていたアランは、かなり無茶な命令であるはずなのにもかかわらず文句も言わずに従うクロードに拍子抜けした。これまでの人間と同じ反応。『木偶の坊』という言葉がちらりと頭をかすめる。

  (もともと期待などしていない。結果を出せれば儲けもの、出来なければクビにすればいいだけのこと。)

そう思いながらも、一方で落胆している自分に気付き、それを振り切るように自分の仕事に戻った。





アランは王に朝の挨拶をするため王室に向かっていた。後ろにクロードがつき従う。クロードがここにきて数日。アランは段々わかってきた。

カレル・シューインが選んだ人間が、やはり普通であるはずがなかったのだ、と。

常識外れ…いや、そうはいっても聞けば納得できる理由はあるから、型破りと言った方がいいかもしれない。常識に一切とらわれず、返ってくる反応が常人とは違う。状況がわかっていないのではないかと疑いたくなるほど何事にも動じない。怒られても次の瞬間にはケロッとしている。きつい仕事を任せても、どこか楽しんでいる風である。何が楽しいのか知らないが、とにかくいつも上機嫌なのだ。

  (得体が知れない…。)

アランは前を向いたまま、クロードに話しかけた。

  「人選は進んでいますか?」

  「はい、確認しておきます。」

  「…確認?」

アランは立ち止まり、振り返った。クロードはにこやかに答えた。

  「はい、人に任せてありますので。」

いけしゃあしゃあと、よくもまあそんな無責任な事を口にできたものだ。

  「人任せ?私はあなたに命令したはずです。」

  「私は貴方のお傍に待機しておかなければなりませんし」

それをきいた瞬間、アランはカッとなった。

  「私が帰宅した後でも時間はたっぷりとあるでしょう!?」

まさか勤務時間外だからと何もせぬつもりなのかと叱責したが、クロードはそれに堪える様子もなく、アランが話し終えるのを穏やかに待ってから、途中で遮られた言葉を続けた。

  「何より私には何の知識も情報もありませんでしたので、詳しい人物に任せました。」

  「…。」

そう言われてしまったら、納得せざるを得ない。クロードの能力を考えるどころか、そもそも知りもせず、一方的に押し付けたのはこちらである。

  「…成る程、それで?責任はあなたが取ると?」

するとクロードはにっこりと笑って、

  「はい。」

と答えた。まあ、そういう責任の取り方があってもいいだろう。『詳しい人物』というのがどれ程のものか、お手並み拝見といこうではないか。

アランは怒気を払って再び歩き始めた。

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