次の日、クロードは残念そうにアランに報告に来た。
「やはり駄目でした。」
どうせ無理だと分かっていたので、別に責める気はなかった。それより、自分よりもクロードの方が残念そうなのを怪訝に思っていると、
「ですが、あなたには無理に団長職をお願いするのですから、せめてあなたのご要望を取り入れてもらいましょう。」
と、今まで思ってもみなかった事を言い出した。
「私の…要望?」
そんなことが可能なのか?諦めきっていたアランの胸にかすかな希望が浮かんだ。
「何がお望みですか?」
「…」
他人にに本心を明かすのは躊躇いがあった。『家事をしたい』など、どうせ真に受けないだろう。別に笑われても構わない。ただ、言っても無駄なだけだ。でも、もし本当にそれが叶うなら。その可能性が少しでもあるのなら…!アランはしばらく迷った後、思い切って言った。
「私は…できる限り家にいて…家の事をしたいのです…。」
「では、ご自宅に執務室を構えられては?」
自分の要求を受けた上での返答が、あまりにすんなり返ってきた事にアランが驚いていると、クロードが「いかがですか?」と微笑んだ。アランは急いでその状況を考えた。
「…他人に踏み入られたくありません。」
「では、勤務時間を現在よりも短くされては?」
それが叶えばどれだけ嬉しいか。だが、
「業務を滞らせるわけにはいかないでしょう?今でさえ時間ぎりぎりなのですから。」
出来うる限りの無駄を省き、最大限作業効率を上げてのぞんで、それで何とか定時に間に合うくらいなのだ。すると、クロードはきっぱりと言った。
「いいえ。業務をあなたしかできないことだけに絞れば、その量は激減するでしょう。」
本当に?ひょっとしたら望みが叶うかもしれない!?
いきなり訪れようとしている幸運に、アランは信じられぬ思いで半ば呆然としながら、クロードの説明に耳を傾けた。
「ここ数日あなたの業務を拝見して思ったのですが、その多くは他人に任せられるものです。あなたの美学に反することも出てくるでしょうが、そのこだわりを手放されれば勤務時間の短縮も可能と思います。ただ、こだわりが大事と仰るのでしたら、この案も難しくなりますが。いかがなさいますか?」
答えは『何でもいいから早く帰りたい』に決まっている。