小説☆アラアル編---側近(5)

新体制が発足して第一日目。

朝、王に挨拶して、報告書に目を通したらすることがなくなってしまった。今までアランがやっていた仕事を、幹部たちが次々と引き受けていったためだ。

だが、何もしないのは性に合わない。取り合えず部屋の整理整頓でもしようかと考えていると、クロードが机の上を綺麗に整えからて立ち上がった。

  「団長、視察に参りましょう。」

  「視察?」

  「はい、報告書の内容がその通りであるか、御自身の目で確認して頂きたいのです。現場の状況を把握しておかれるのも、いずれ役に立つかと。」

今まで一度もそんな事をしたことがなかった。報告書で充分だと思っていたから。だが、クロードの言うことには一理あるし、他にすることもないので行ってみることにした。



そして、実際に現場に赴いてみて、その重要性を痛感した。伝え聞くのと自分の目で見るのとでは大違いだったのだ。

  「何が『特に問題なし』ですか!問題だらけではありませんか!」

アランが責任者を叱責すると、クロードが取り成した。

  「嘘をついているわけではありません。ただ問題に気付かないだけなのです。」

  「気付かない!?この現状を見て、何も思わないというのですか!?」

するとクロードは、

  「そうです。」

と、真正面からきっぱりと認めてしまった。まさかそんな事とは思いもよらなかったアランは、二の句が告げなかった。

  「誰もがあなたのように考えられるわけではありません。同じ視点を持っているわけではありません。だからこそ、あなたが必要なのです。どうぞ、ご指示を。」

分からないなら仕方がない。犬に説教したって無意味であるのと同じことだ。アランは隅々まで目を光らせながら、次々と指示を出した。 責任者は問題を指摘される度にぺこぺこと頭を下げながら、アランの後を付いて来る。アランはふと立ち止まった。

  「先ほどからメモを取っていないようですが、今出した指示を全て覚えたのですか?」

  「えっ?あ…は、はい…い、いえ…。」

責任者はしどろもどろになった。それを見たアランは、ふっと溜息をついた。 無能なら余計に、それを補う工夫なりなんなりすればいいものを、それすらもできないのか。いや、それが出来ないから無能なのか。こんな人間は必要ない。

  「この者は解雇です。誰か他の人間を…」

すると、隣でメモを取っていたクロードが口を挟んだ。

  「団長。そういった処分は懲罰にお任せください。」

  「!」

そうだった。懲罰の権限がなくなったのだ。アランはクロードを睨んだ。

  「…懲罰を作ったのは、やはり失敗でした。」

気に入らぬ者を自分の好きに処分できないのはストレスが溜まる。だがクロードはあっさりと言った。

  「そんなことはありません。ただ懲罰にお任せくださればいいのです。また、あなたの指示に沿って改善されるようこちらで対処しますので、この後の事は心配には及びません。」

  「…成る程。」

これからは全部自分が何とかしようと思わなくていいのだ。他の誰かがしてくれる。アランはすっと気持ちが軽くなった。そんなアランをクロードは笑顔で促した。

  「さあ、次の場所へ参りましょう。」



最後に視察した場所で、

  「明日の報告書では、このようなことがないように。」

そうきっちりと言い残して、団長室に戻りながら、アランは明日が少し楽しみになったのを感じた。これで現場がどう改善されるのか。

今まで報告書は、ただ機械的に右から左にやるだけのものであった。

だが、明日の報告書は意味のあるものになるはず。

アランはこの時初めて、この仕事にやりがいを感じたのであった。





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