小説☆アラアル編---写真

  「アルベル様?」

朝食の準備が出来、アランはアルベルを起こしに寝室に行った。だが、普段は一声かけただけですぐに目を覚ますのに、今朝は全くの無反応だ。昨夜は少々無理をさせてしまったようだ。

朝の光の中、アルベルは全裸で、シーツと自分の長い髪に絡まるようにして、ややうつ伏せに眠っている。アランは、ベッドのそばにたたずんで、それを眺めた。穏やかな寝顔で静かに寝息を立てているその姿は本当に美しくて、できることならこのままずっと眺めていたいと思って、ふといい事を思いついた。

アランはアルベルを起こさぬよう、そっと部屋を出、映写機を手に戻ってきた。そして、施力を込めてその姿を焼き付けた。

  「ん…?」

アルベルが気配を察したのか、目を覚ましながら仰向けに寝返りを打った。アランはさりげなく自分の体の影に映写機を隠した。勝手に、しかもこんな姿を写真を撮った事がばれたら、きっとアルベルは怒り、写真は取り上げられてしまうだろうと思ったからだ。

だが、アルベルはそれには全く気付かず、胸を逸らしながら大きく伸びをした。そのしなやかさに、アランはドキンと胸を弾ませた。つい何時間か前、この体を存分に抱いたはずなのに、もう触れたくてたまらない。昨夜、もっとたくさん触れておけばよかった。時間が巻き戻ればいい。アルベルの体から目を離せなくなって、ドキドキしながらそんなことを考えていると、アルベルがうっすらと目を開け、ぼーっとしながら窓の明るさを眺めた。

  「…もう朝か…。」

  「はい。朝食の用意ができました。」

それを聞いたアルベルは、まだ寝ていたい気持ちに踏ん切りを付け、起き上がって長い髪を鬱陶しそうに掻き揚げた。

  「…わかった。すぐいく。」



アランは先に部屋を出ると、そこでふうっと呼吸を落とし、気持ちを鎮めた。

好きで好きで堪らない人。

その何気ない仕草に、いつもこんな風に心を掻き乱される。それは、死すら覚悟したあの苦しい片思いの頃から、ちっとも変わっていない。寧ろ、日を追うごとに増してきているようだ。

アランは手にしていた映写機を取り出した。そして、そこに写っているアルベルの姿に微笑んだ。

  「綺麗だ…。」

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