小説☆アラアル編---夢と目覚め

いつもの悪夢がやってきた。

父が自分の前を歩いている。自分はその大きな背中を見上げながら、必死についていく。

その背中に追いつこうとした瞬間、突然目の前に激しい炎が巻き起こり、父をあっという間に包み込んでしまった。

  (親父ーッッ!!!)

アルベルは絶叫してその熱い炎の中に飛び込み、必死に父の姿を探す。

  (親父ッ!どこだッ!!親父ッ!!!)

炎の中を掻き分けていくうちに、自分の左腕が炎に包まれているのに気がついた。

  (熱い!!左腕が燃えるっ!!!)

その痛みに、堪らず左腕を抑えてガクリと膝を突く。

左腕を抱え込んでうずくまると、アルベルは小さな幼子の姿へと変わっていった。

  (誰か!誰か助けてくれ!!親父ッ!!!)

と、ふわりと背中からあたたかい光に包み込まれた。自分の頭をなでるやさしい手。みるみるうちに炎が消えていき、それに同調するように左腕の痛みがやわらいでいく。

  (親父、そこにいたのか。良かった…。)

アルベルはほっと振り返ると、そのぬくもりに手を伸ばし、安堵して眠りについた。






* * *

唸り声で目が覚めた。

アランは目を開けてその方を見やると、苦しげにうなされているアルベルの背中が見えた。起きあがってアルベルを覗き込む。アルベルは左腕を抱え込むように背中を丸め、縮こまっている。窓からは月明かりがさし、その苦しげな表情が見て取れた。額からは玉のような汗。

  「アルベル様!」

肩をゆすって起こそうとするが、全く起きる気配は無い。

キツクつぶられた目からポロリと涙が零れ落ちる。

その涙にアランは、はっとし、そっと唇でその涙をふき取ると、背中からアルベルを抱きすくめ、やさしく髪をなでた。

すると、アルベルは眠ったままこちらに寝返りをうち、身を寄せてきた。アランはそんなアルベルを抱きしめなおし、またやさしく髪をなでた。

次第にアルベルの呼吸が落ち着いていき、やすらかな寝息へと変わっていった。

アランはそのままの姿勢で目をつぶってその寝息に耳を傾けていたが、やがて自分も再び眠りに落ちていった。






半分眠ったまま、そのぬくもりの心地よさに夢見心地でいると、さらりと髪をなでられた。

  「アルベル様。」

と呼ばれ、ふと目を開けると目の前には白い肌。あたたかい腕に包まれ、その胸にぴったりと頬を寄せている自分に気がつき、ガバッと身を起こした。

パニクッているアルベルに、アランは微笑みながらやさしく声をかけた。

  「ああ、よかった。もう起きないと遅れてしまうところでした。」

  「なにっ!」

そう言われて時計を見やると、とんでもない時間を示していた。

  「なんでもっと早く起こさねえんだ!」

慌てて服を着ながら文句を言うと、

  「本当はずっとああしていたかったのですが。」

とアランはそれを手伝いにきた。が、

  「いいッ、触るな。」

と、アルベルはその手を払いのけた。

  「しかし、髪を巻くのは時間がかかるでしょう?」

とアランはアルベルの髪に手を伸ばした。確かに自分でやっていたら時間に間に合わない。部下に時間厳守を徹底させている以上、自分が寝坊などで遅れるわけにはいかなかった。

  「ちっ。」

と舌打ちをし、仕方ないといったふうにアランに任せた。

アランはドキドキしながらアルベルの髪に櫛を通していき、いつもは紐に隠されているその美しさを明るい朝の光の中で堪能した。まっすぐでさらりとつややかな髪。生え際から離れるほど髪が金色を帯びている。

もっと触っていたいのだが、時間がない。手早く髪を二つに分け、クルクルと器用に紐を巻いていく。その手際の良さと出来映えに、アルベルはひそかに満足した。もちろんそんなことは顔に出さない。

アランはウキウキと、新妻気分でアルベルに訊ねた。

  「朝は何を召し上がられますか?」

  「いい。」

  「しかし、何か食べないと体に悪いです。」

  「うるせぇ。」

アランの申し出を全て短い言葉で断ると、振り向きもせずバタンッと出ていった。

アランは一人取り残されると、ふうっと溜息をついた。

そして、手早く身支度をすませ、さっとアルベルの後を追いかけた。

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■あとがき■
新婚さん、いらっしゃぁい!でも、そんな気分はアランだけみたい…。