アルベル様が王への謁見のついでに、私の部屋に寄って下さった。この吹雪の中をカルサアから飛竜でいらっしゃったとか。それを聞いて驚いた。凍えて当然だ。こんなことなら部屋を暖かくしておけばよかった。私は部屋に入るなり、急いで暖炉に火をつけた。
アルベル様は暖炉の前で濡れた装備を外し、暖炉に震える手をかざしながら擦り合わせている。寒さに震えるその体を、この腕で暖めることができたらいいのに。このような場所でそんな真似をすれば、アルベル様はきっとお怒りになる。ならば、せめて体が温まる飲み物を。
アルベル様とのお茶の時間。私はアルベル様に今日一日のことを尋ねる。私の知らないところで何をなさっていたのか、アルベル様の全てを何もかも把握していたい。だが、アルベル様は聞けば答えて下さるが、自分からは何もおっしゃって下さらない。だから、まだ私の知らない事は山ほどあって、それを他の誰かが知っていたりすると、いつも激しい嫉妬に狂いそうになる。
アルベル様がお茶を飲み終え、席を立たれた。もっと一緒にいたくて、お代わりをすすめたが断られてしまった。しかし、一緒に帰る約束は取り付けた。急いで仕事を片付けなければ。
と、アルベル様が乾いたソックスを履くために椅子に足をかけた。白くすらりとした足。その滑らかな手触りを思い出しかけて、慌てて目を逸らした。
アルベル様は性的な事に関して、実に淡白で潔癖だ。そんな人の何気ない仕草にまで妖艶さを感じてしまうのは、私の邪な心のせい。私がアルベル様をどういう目で見ているかをお知りになったら、きっと軽蔑されて―――
「何故、目を逸らす?」
ドキリとした。アルベル様が私を見据える。気付かれてしまっていたのだ。その美しい紅瞳に己の欲望を見透かされ、羞恥に身の置き所がなくなってしまった。だが、
「俺が欲しいか?」
という意外な言葉に、私は我が耳を疑った。ひょっとしてアルベル様から誘ってくださっているのだろうか?
だが違った。なりふり構わず「はい。」と答えた私の余裕のなさに呆れたのか、ふいと背中を向けてしまわれた。でも、もう抑えられない。私は後ろからアルベル様を抱きしめた。そしてそのまま耳に口付ける。すると、アルベル様の体がフルリと震えた。それを感じた途端、私の心はオーガズムに打ち震えた。アルベル様に出会うまで知らなかった快感。この至福に比べたら、肉体の快楽など実に薄っぺらだ。
私の愛撫で、アルベル様が淫らに乱れてゆく。その様を見るだけで、その喘ぎを聞くだけで、その身悶えを感じるだけで、私の心は何度も絶頂を迎える。
愛しくて愛しくて堪らないこの人をこの腕に抱いていられるこの悦びを、どう表現していいのかわからない。このまま一つに溶け合ってしまいたい。だが、その願いもむなしく、その肌に触れた途端、荒っぽく振りほどかれてしまった。
しかし、それでも諦めきれず、咄嗟にアルベル様の手を取った。
「今夜―――」
あなたが欲しい。アルベル様は一瞬立ち止まって、だが振り返らずにそのまま出て行かれた。
アルベル様がいなくなった部屋で、私は一人立ち尽くした。
あなたが愛しくて堪らない。あなたの温もりを全身で感じたい。そして、あなたに愛されたい。
はちきれるほどの想いが一気に弾けそうになって、思わずわが身を抱きしめた。