小説☆アラアル編リクエスト---誘発〜アルベル編

  「寒い…。」

なんだってこの国はこんなに寒いのか。雪が降りしきる中、カルサアから飛竜を飛ばし、アーリグリフ城に着いた頃には完全に凍えきってしまった。体が震え、歯の根が合わない。王に会う前に、取り合えずアランの部屋で暖を取るか。…まぁ、行ったところでアイツの部屋はいつもクソ寒いのだが。

城に入ってアランの部屋に向かおうとしたとき、アランの透き通った声が聞こえてきた。何事か部下に命令をしているらしい。俺はそれを背後から眺めた。

アランのすっと伸びた首筋から背筋の線は実に美しい。何気ない仕草にさえ気品が漂い、ただ立っているだけで絵になる。そして、アランは部下に対してでも口調も姿勢も崩さない。部下もそれに倣うかのように、皆お行儀が良い。ヴォックスが生きていた頃の疾風は、血筋がご自慢の、頭が悪いくせに損得の勘定だけは妙に上手い阿呆共ばかりだったことを考えると、やはり団長の存在というのはそれだけの影響力を持つということだ。

…ということは、今の漆黒は俺の投影ってことか。そう考え至った事実に少々落ち込んでいると、アランの命令を受けた部下がさっと解散した。そして俺の前を通り過ぎる時、皆爽やかに挨拶していった。…漆黒とはえらい違いだ。

アランが俺に気がついた。すると、途端にアランの雰囲気がふわっと柔らかくなり、その美貌に暖かな優しさが溢れた。呆けた顔でそれに見惚れそうになっていた俺は、慌てて顔を顰めた。



寒々としたアランの部屋に入る。アランが暖炉に火を付け、俺は早速そこにかじりついた。装備を外し、解けた雪で湿った服を乾かす。

  「どうぞ。」

アランが傍のテーブルに茶を持って来た。二つのカップに注ぎ分けると、湯気と共に生姜のいい香りが立ち上った。砂糖を入れた方が俺のだ。

今日は何をしたか、今晩は何を食べたいか、あれやこれやと聞かれることに答えながらそれを飲んでいるうちに、体の芯から温まってきた。そろそろ服も乾いたようだ。俺は立ち上がり、身支度を始めた。王に謁見したら今日の勤めは終わりだ。

  「謁見を済まされる頃までに仕事を終わらせますので、一緒に帰りましょう。」

  「ああ。」

そう返事して、椅子に足を乗せて乾いたソックスを履こうとした時、アランがすっと目を逸らした。そのことで、自分の太ももがむき出しになっていたのに気付いた。

何故だか知らんが、この体がこの男を欲情させてしまうのだ。ふと悪戯心が沸き起こり、こいつをちょっと困らせてみたくなった。俺は何食わぬ顔で、

  「何故、目を逸らす?」

と聞いてやった。すると、アランの白い頬に赤みがさした。いつも平然とセッ……口にするのも憚られるような単語を口にする奴が、どうやら恥いっているらしい。ふっ、面白い。

  「俺が欲しいか?」

  「はい。」

アランは素直に答えた。あまりにまっすぐ見つめられ、急に恥ずかしくなった。そう、こいつはただ純粋に、『あの行為』を、食事をするのと同じように当たり前の事だと捉えているから、普通に『セックス』と言い表し、ストレートに要求することができるのだ。本当は、それに過剰に反応して、変に誤魔化して隠そうとする方が厭らしい。

  「つくづく物好きな奴だな。」

俺はアランに背を向け、残りの装備を手早く身につけながらそう言った。なんでこんな男が、自分のような、しかも男につまづいてしまったのか。本当に理解に苦しむ。

と、突然後ろから抱きしめられた。アランの纏う微かな香水の香りが、ふわりと俺を包む。ある時は俺の心を落ち着かせ、またある時はざわめかせもするその優しい香りは、今はひどく淫靡な気分にさせる。

そして、耳に口付けられた途端、甘い刺激が体中に走った。だが、アランの手が太ももにするりと滑った瞬間、はっと我に返り、アランを振りほどいた。本当はこのまま流れに飲み込まれてしまいたい。しかし、いつ誰が来るかわからない状況で、そんな真似はできない。一刻も早くこの場を去らなければ、俺は自分をとめられなくなる。刀を拾い、一切を振り切って、外へ出ようとした時、アランが俺の手をつかんだ。掴まれた手が熱い。しかし、振り返ることはできない。振り返ってしまったら、俺は―――

  「今夜…」

その時、アランが耳元でそう囁いた。ドクンと心臓が跳ね上がり、一気に沸き起こった感情に一瞬眩暈がした。だが俺は必死に理性に号令をかけ、アランの手を解いて部屋を後にした。

外の寒気が体の火照りを冷ましてくれる。だが、頭はあの事ばかり考える。

すらりとした手で触れられ、滑らかな肌を全身で感じ、互いの熱い喘ぎを聞きながら、蕩けるような口付けを…。

この疼きは、もう自分ではとめられない。

アランでなければ。

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■あとがき■
『受け』ってとこまで行ってませんが、一応『誘い受け』ということでっへっへ(誤魔化し笑)。何気ない一言でアランの衝動を誘発してしまったアルベル。その場は何とかしのぎつつも、既に甘い衝動に捕らえられてしまいました。逃げられないよv