小説☆カレル編---解放(3)

朝?いや、昼過ぎ。もう夕刻近くだ。

久しぶりに眠れた。あの夢は見なかった。

カレルは身体を起こした。そして思い出した。ライマーの胸で、そのあたたかい匂いを吸い込んだらそのまま眠ってしまったのだ。

  (ライマーは…もう帰っちまっただろうな…。)

ライマーがキスしてくれた。ハロルドや部下達がその場にいたにもかかわらず、それを躊躇いもしなかった。「その手の話を俺に振るな。」と同性愛を話題にすることすら嫌がっていたライマーが、男にキスするというタブーまで犯してくれたのだ。

  (俺のために…)

ライマーはカレルにとって憧れであり、男の理想像だった。その彼が自分の為にそこまでしてくれる……自分はそれが欲しかったのだ。

今まで無意識でしていたことが、今その理由と共にはっきりとわかった。

これほどライマーに依存し、しがみつこうとするのは、彼に認められることが、自分の価値を知る唯一の手段だから。だから、ライマーが自分から離れると思うだけで、自己が崩壊してしまう程の恐怖に陥ったのだ。

自分で自分を認めればいい?

どうやって!?

悪夢の中でうずくまっている自分を、直視することすらできないのに。

  (ライマー…)

こんな自分でも良いと言って欲しい。

こんな汚い自分にキスして欲しい。

こんなボロ屑のような自分を愛して欲しい。

そうしたら自分を認めることができる気がする。



…はああぁ…

あの男の喘ぎ声が頭に響き始めた。

はあはあぁ…男の癖に、男に愛されたいだと!?はははは、このオカマめ!はぁはぁ……誰がお前のような汚い小僧を愛するもんか。…あぁ…はああ…ああぁ…ああああ!

カレルは耳を塞ぎ、グシャリと髪を握り締めた、その時。

  『本当だ。少しは俺を信じろ。』

ライマーの声がした瞬間、男の声が掻き消えた。そして、男の声と共に体中に這い回っていたおぞましい感触が、ライマーのあたたかく大きな手のひらと優しい唇の感触に置き換わり、あの大好きなライマーの匂いが、吐き気のする悪臭を吹き飛ばして、カレルをふわりと包み込んだ。

  『本当だ。少しは俺を信じろ。』

カレルの目から涙がこぼれた。

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■あとがき
この後、アルベル消息不明の知らせが来、本編「新体制〜後半(3)」へ続くわけです。落ち込んでいる暇もありません。