朝?いや、昼過ぎ。もう夕刻近くだ。
久しぶりに眠れた。あの夢は見なかった。
カレルは身体を起こした。そして思い出した。ライマーの胸で、そのあたたかい匂いを吸い込んだらそのまま眠ってしまったのだ。
(ライマーは…もう帰っちまっただろうな…。)
ライマーがキスしてくれた。ハロルドや部下達がその場にいたにもかかわらず、それを躊躇いもしなかった。「その手の話を俺に振るな。」と同性愛を話題にすることすら嫌がっていたライマーが、男にキスするというタブーまで犯してくれたのだ。
(俺のために…)
ライマーはカレルにとって憧れであり、男の理想像だった。その彼が自分の為にそこまでしてくれる……自分はそれが欲しかったのだ。
今まで無意識でしていたことが、今その理由と共にはっきりとわかった。
これほどライマーに依存し、しがみつこうとするのは、彼に認められることが、自分の価値を知る唯一の手段だから。だから、ライマーが自分から離れると思うだけで、自己が崩壊してしまう程の恐怖に陥ったのだ。
自分で自分を認めればいい?
どうやって!?
悪夢の中でうずくまっている自分を、直視することすらできないのに。
(ライマー…)
こんな自分でも良いと言って欲しい。
こんな汚い自分にキスして欲しい。
こんなボロ屑のような自分を愛して欲しい。
そうしたら自分を認めることができる気がする。
…はああぁ…
あの男の喘ぎ声が頭に響き始めた。
はあはあぁ…男の癖に、男に愛されたいだと!?はははは、このオカマめ!はぁはぁ……誰がお前のような汚い小僧を愛するもんか。…あぁ…はああ…ああぁ…ああああ!
カレルは耳を塞ぎ、グシャリと髪を握り締めた、その時。
『本当だ。少しは俺を信じろ。』
ライマーの声がした瞬間、男の声が掻き消えた。そして、男の声と共に体中に這い回っていたおぞましい感触が、ライマーのあたたかく大きな手のひらと優しい唇の感触に置き換わり、あの大好きなライマーの匂いが、吐き気のする悪臭を吹き飛ばして、カレルをふわりと包み込んだ。
『本当だ。少しは俺を信じろ。』
カレルの目から涙がこぼれた。