「金を掛けず、皆で盛り上がれて、尚且つ旦那の魅力を引き出す…。」
カレルはライマーの机の横に椅子を持ってきて座り、ライマーが書類整理しているのを、肘を突いてぼんやりと眺めながらつぶやいた。カレルは煮詰まるとこうしてライマーの仕事の邪魔をしに来るのだ。
カレルはため息をついて机に突っ伏した。机の面積が狭くなる。
「こら、腕が邪魔だ。」
ライマーがカレルを突くと、カレルはしぶしぶ起き上がった。
「旦那の魅力はそりゃ色々あるけどなー。企画にできそうなやつっつったら…お前、なんか浮かばねぇ?」
「それはやはりあの強さだろう。」
アルベルの戦いを見ると、その凄まじさに鳥肌が立つ。
「それは武闘会がある。他には?」
「…舞踏会で美貌を前面にだすとしたら、あとは…律儀な面とか、か?」
「約束は絶対守るしな。でも祭りの企画にゃならねーなー…。」
カレルは椅子の背に寄りかかって、ふむと考え込んだ。日常のアルベルを思い浮かべていく。
「旦那って、笑うとすげえ可愛いんだよなー…。」
「じゃあ、笑わせるか?」
カレルはガバッと身をたてにした。
「そうだ!その線で行こう!ちょっと、紙とペン貸せ!」
カレルはライマーが握っていたペンを引っこ抜いて、近くにあった紙に猛烈なスピードで走り書きし始めた。
「…。」
文字を書いている途中だったライマーは、諦めて別のペンを取り、カレルが陣取った分、一層狭くなってしまったスペースで、黙って作業に戻った。
アルベル不在の幹部会議で、カレルは企画をバンと提示した。
『アルベル・ノックス団長を笑わせたら豪華賞品が貰えるよ!
挑戦一回につき100フォル。
〜賞品一覧〜
大爆笑…レア物
笑顔…いい物
失笑以下…つまらない物 』
「豪華賞品って、そんな予算はありませんよ。」
ユークがソロバンを鳴らしながらぴしゃりと言う。カレルはちっちっちと指を立てた。
「金を掛けるだけが能じゃねぇ。考え方次第でいくらでも豪華になるんだ。」
「考え方次第?例えば?」
「そーだな、例えば俺は今、カチカチが欲しい。」
「カチカチ?なんですかそれ?」
そう思ったのはユークだけではなかった。みんなの頭の上に?マークが浮かんでいる。
「知らねぇの?紐の先に玉が付いてて、それをぶつけて遊ぶやつ。」
「あー、あのカチカチですね!子供のころ遊びましたよね。」
オレストが手の動きをして見せた。
「俺にとっちゃぁ手の届かねぇ憧れのオモチャだったがなぁ。」
家が貧しかったジノが感慨深げに言うと、カレルは俺もそうだ、と言った。そのカチカチはユークも知っていたし、遊んだこともある。けれど、
「……そんなもん、どうするんですか?」
するとカレルは「そこだ!」と指を刺した。
「お前にとっては価値のないもんでも、俺にとっては価値があるわけだ。それを利用する。」
カレルは命令を出した。
「団員に賞品の募集を掛けろ。」